Sweet Sunday



朝、もしくは早朝。

まだ空気が冷たくて、吸い込む冷気は湿り気を帯びていた。

空は雨上がりで、無数の白い雲が朝日に照らされて淡い橙や桃色を溢したようだった。

踏み込んだ足元の草花が少し沈みこんで、土のにおいが鼻をかすめる。

高原である。

足音は二人分。

無言の空気は少し固いけれど、気まずくはなかった。

普段は見られない辺りの景色に目を奪われて、お互いがいるようでいない。

存在を認識できるのは、緩く繋いだこの手だけだ。

寝起きのほんのりとした温もりが柔らかく俺の手を包んでいて、それだけで心臓が、どきどきする。

「翔ちゃん」

鳥のさえずり、風の囁き。

羽ばたく音まで聞こえてきそうなこの場所で、まだ眠たそうな声ですらも響くようだった。

「なんだ?」

「こめんね、眠たい時間なのに」

「いいって、気にすんな。…眠たいのはそっちだろ?」

それもそっか、と照れ笑いを浮かべるなまえ。

今日は高原のほうへ、ほかのやつらと一緒に泊まりがけで遊びにきた翌日だった。

早起きして、辺りを散歩しようよ。

そう持ち掛けてきたのは確かになまえだ。

「空、舐めたら甘そう…」

「…お前寝ぼけてるのか?」

ぼんやりと空を眺めてそんなことを呟かれれば、誰だってそう思うだろう。

「起きてるよ」

「目ェぼんやりしてるけどな」

「翔ちゃん疑り深いー」

やはり緩く笑う。

なんだかこいつだけ別世界にいるんじゃないか、とすら思う。

でもそのぼんやりした顔は無防備で、いつもの照れ屋な姿はどこにもない。

正直、可愛い。

きょろ、と辺りを見回して人がいないのを確認してから、握った手を引き寄せる。

翔ちゃん、と言わせる間すら与えずに抱き締めて、逃がさないように力を込めた。

「…翔、ちゃん」

「…嫌か?」

「ううん」

舌足らずな声で俺を呼ぶ。

小さく抱き締め返してくる姿も、照れたように顔を埋める姿も、全部俺のものだ。

そう思うだけで幸せになれた。

「翔ちゃん、あのね」

少し意識が覚醒したのか、先程よりはっきりした声がした。

「ん?」

「愛してるよ」

顔を埋めたままで、少しくぐもった声で。

静かな空間に一音、音を落としたかのようだった。

言葉にして返事をしたら、思ってもいない言葉まででてきそうで。

きつく抱き締めた腕を緩めて、えへらと笑う唇に口付けた。

俺の愛が全部全部、残らず伝わってしまえばいい。

そうすれば、この幸せで優しい空間に、まだこの身を置けるのだろうから。

スイートサンデー

空も空気も時間もあなたも、愛で甘くとろけてゆく。




0810







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