Strawberry Saturday
厚い雲の隙間から夕陽が僅かに溢れ落ちて、甘い桃色で空を染めている。
太陽だけを隠すかのように西の空を覆う雲は、東へ伸びるにつれて千切れて、むしられた綿のようになっていた。
触れたら柔らかそうだ、なんて思いながらひたすらに空を見つめる。
普段は眩しくて空なんて目も当てられないけれど、夕方のこんな空なら話は別だ。
「音也」
窓枠に頬杖をつきながら、椅子に座っている俺の方を叩く。
視線だけで声の主を確認すると、動揺がばれないようにできるだけ心を落ち着けた。
「音也ってば」
「聞こえてるよ」
「返事してくれてもいいじゃん」
何を見てたの?
そう言いたげな目が相変わらず俺を捉えている。
「空、綺麗だね」
「ほんとだ。…音也でも黄昏ることあるんだ」
「俺だってそれくらいするよー」
「いつも元気だから、そんなことできないかと思ってた」
どこまでが冗談なのかわからない。
くすくすと笑っている辺り冗談なのだろうが、半分は本心なんじゃないだろうか。
「ね、音也」
「なに?」
スッと近づくなまえとの距離。
甘い、シャンプーとは別の優しい匂いがふわりと香って、それだけで心拍数が上昇した。
俺、情けないかも。
トキヤとかレンなら、こんなことになっても冷静なのかなあ…。
「音也、きれいだよ」
「へ?何が?」
「音也が」
にこにこと笑いながらこちらを指差すなまえ。
俺が綺麗?
夕陽じゃなくて?
そんな疑問を見透かしたように、形の良い唇が次いで言葉を紡ぐ。
「夕陽の赤い光が音也に当たるとね、ふわふわきらきらするの」
「ふわふわ…」
「うん。とっても優しい顔」
そう笑って、少し冷たい手が俺の頬を包む。
ああ、やばい。
俺きっと、顔赤い。
夕陽で誤魔化されてるかな、いやそうじゃないといよいよ俺は情けない。
「好きだよ」
「…俺も大好き」
えへ、と破顔して笑う顔が、ほんとに、最高に可愛かった。
「情けなくても好きだよ?」
「うっ…」
ああ、やっぱりバレてたか。
本当は、かっこつけたいんだけど。
なまえの前でかっこいい姿を見せるのは、ちょっとまだ難しいみたいだ。
ストロベリーサタデー
真っ赤な優しさに包まれている君が好きだよ。
0808
音也はイチゴっぽい。