Yoghurt Thursday



抱き締めるとか、囁くとか、そんなことはできなかった。

神宮寺なら容易くなし得たのだろうが、残念ながら俺にはそんな余裕はない。

なまえを目の前にするとどうしようもなく愛しくなってしまう。

冷静沈着だと以前言われたけれど、それはある意味俺の演技だ。

本当はこんなにもくるおしく、すぐにでもお前を壊してしまいそうなのに、それを必死に押さえつけている。

「まさと」

そう呼ばれるだけなのに、いまだに慣れない名前の呼びに心臓が大きく脈打った。

いかん、しっかりしなくては。

彼女が誉めてくれた俺を、保っていなくては。

そうでなければ、俺は…

「まーさと!どうしたの?」

「あ、ああ…すまない、考え事をしていた」

「何を?」

こてん、と首をかしげながらこちらを覗いてくる。

柔らかい髪が揺れて、太陽に淡く透ける。

蒼く見えるほどに美しい黒髪を、白くて紅潮しやすい肌を、俺だけを映すその瞳を。

今すぐに掻き抱いてしまいたくなる。

「真斗…」

「ああ、どうしたんだ?」

「最近なんかおかしい。なんだか、我慢してるみたい…」

心配そうに眉根を寄せて、そっと俺の頬を撫でてくる。

お前にはお見通しだと言うのか?

ぴたりと頬を包んだ手をとって、軽く、壊れないように握りこんだ。

ガラス細工のように、力を込めたらパキンと折れてしまいそうで。

「どうしたの?」

「…お前は、俺のどんなところが好きなんだ?」

聞くには非常に恥ずかしかったけれど、聞かねばなるまい。

俺は到底、この思いを隠しきることはできそうにない。

なまえの好みにあまりにもそぐわないようなら、別れてしまってもいいんじゃないか。

やっとつかんだ幸せを手放すなんて、できるかさえもわからないのに。

なまえが口を開くのが恐ろしくて、次第に握った手に力を込める。

すると、驚くほどに強い力が手を握り返してきた。

華奢な手からは想像もできないほどに、強い力。

にんまりと人懐こく笑って、なまえが口を開く。

「感情を我慢しない真斗が好きだよ」

「…気がついていたのか」

「当たり前。…もしかして、私が壊れるとかそんなこと思ってたりするの?」

「…」

図星でなにも言えず、口を閉ざす。

ぎゅっと引き結んだ唇に、なまえの人差し指が緩く触れた。

「女の子を舐めるなよー?真斗よりは弱いけど、感情をぶつけられて崩れるほど弱くもなーいの」

ね、と微笑む姿はやはり愛しい。

握られた手を振りほどいて、力一杯に抱き締める。

甘い匂いに優しい温もり。

女性とはこんなに芳しいものなのか。

力一杯抱き締めても尚、抱き締め返す強さに驚く。

立ち止まりながら、足踏みしながら、少しずつ。

そんな俺の手を引いてくれるお前は、やはり俺の最愛の人に相応しい。

柔く緩く、優しく。

どこまでも甘いのに、しっかりと芯の強さを持つ人だ。

お前以外の女性など、俺には到底眼中に入るまい。

だからどこにも行かないでくれ、と願いながら、そっと黒髪に口付けた。

ヨーグルトサーズデー

その甘酸っぱさが癖になっていく



0803
まさやん。激情を仕舞っている感じ。






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