流れ込むもの






肺の中に鉛を仕込んだように、息が重苦しい。

胃の辺りが締め付けられて、歩く足がのろくなる。

「…頑張るって決めたんだろ?」

ぽん、と背中に置かれる手。

俯いた顔をあげると、頼もしい翔ちゃんの顔があった。

暗くもない、笑顔でもない、真剣な瞳。

その暖かい手と、真剣な瞳があるだけで、私の気分は軽くなる。

ほんの、少しだけ。

ゆっくり頷くと、背中の手がぽんぽんと私を叩く。

「…ほら、いくぞ」

「うん、」

自分の喉からでてきた声は、予想よりもか細い。

自分はどんな顔をしているのだろう。

通りかかったガラスの窓を見ると、眉を下げて背を丸めた自分がいた。

…ああ、変な顔。

一歩前を行く翔ちゃんの服の裾を握ると、振り返る翔ちゃんが、笑った。

「…ほら、手」

「うん」

「…お前なあ、いつもの元気はどうしたんだよ?」

「いま元気になれるとでも…?」

握った手の力が、痛いくらいにぎゅうっと強くなる。

「今元気じゃなくてどーすんだよ!」

ああ、私の心を簡単に拾い上げてしまう彼は、本当に王子様だ。

重たい足が少しだけ軽くなった気がして、繋がれた手が少しだけほんのりと暖かくなった気がして。

じわりとにじむ涙が、早く乾きますようにと願いながら、私は翔ちゃんの後を追った。


流れ込むもの

流れた涙の代わりの、勇気



0917







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -