流れ込むもの
肺の中に鉛を仕込んだように、息が重苦しい。
胃の辺りが締め付けられて、歩く足がのろくなる。
「…頑張るって決めたんだろ?」
ぽん、と背中に置かれる手。
俯いた顔をあげると、頼もしい翔ちゃんの顔があった。
暗くもない、笑顔でもない、真剣な瞳。
その暖かい手と、真剣な瞳があるだけで、私の気分は軽くなる。
ほんの、少しだけ。
ゆっくり頷くと、背中の手がぽんぽんと私を叩く。
「…ほら、いくぞ」
「うん、」
自分の喉からでてきた声は、予想よりもか細い。
自分はどんな顔をしているのだろう。
通りかかったガラスの窓を見ると、眉を下げて背を丸めた自分がいた。
…ああ、変な顔。
一歩前を行く翔ちゃんの服の裾を握ると、振り返る翔ちゃんが、笑った。
「…ほら、手」
「うん」
「…お前なあ、いつもの元気はどうしたんだよ?」
「いま元気になれるとでも…?」
握った手の力が、痛いくらいにぎゅうっと強くなる。
「今元気じゃなくてどーすんだよ!」
ああ、私の心を簡単に拾い上げてしまう彼は、本当に王子様だ。
重たい足が少しだけ軽くなった気がして、繋がれた手が少しだけほんのりと暖かくなった気がして。
じわりとにじむ涙が、早く乾きますようにと願いながら、私は翔ちゃんの後を追った。
流れ込むもの
流れた涙の代わりの、勇気
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