不格好な愛



「翔ちゃん、汗だくだね」

放課後に音也たちとサッカーしてから教室に帰ってくると、俺の席になまえが座っていた。

ぽんっと投げられたタオルを受けとると、使っていいよ、と笑われる。

そんなに俺、汗かいてるか?

「んじゃ、遠慮なく」

ごしごしと顔をふいてみたら、ふわっとした匂いが鼻を掠めた。

あ、なまえの匂い。

そう意識するだけで、何となく鼓動が早くなる。

落ち着け俺!

「さんきゅ。洗剤、いい匂いだよな」

「へ?そう?」

「おー。なんか、オレンジみたいな…」

爽やかでほのかに甘い匂い。

「あ、それシャンプーかも」

「シャンプー?」

「さっきまで枕に使ってたの。ごめん、嫌だった?」

枕、って…タオルにうつ伏せになってたってことか?

じゃあ、なまえもいい匂いなのか。

そこまで考えて、何となく、タオルを俺の汗で汚すのがもったいなくなった。

適当にたたんで片手に持ってから、ポロシャツをまくりあげて首もとを拭いていく。

「タオル使わないの?」

「俺、汗くせーし」

「別にいいのに…」

「ちゃんと洗って返すからな」

いいってば、と苦笑い。

その遠慮が、俺には「別にいいのに」なんだけど。

だいたい汗を拭き終わると、ひんやりしたクーラーの風が気持ちよくなった。

ぱさ、とシャツの裾を下ろす。

と、なまえがぽつりとつぶやいた。

「翔ちゃん、腹筋きれーだよねー」

「は?」

何を言い出すんだ、こいつは。

「だって鍛えられてるから割れてるし、肌憎らしいくらいすべすべだし…」

「…なんだ?お前は腹筋割りたいのか?」

「違うよバカ。…か、かっこいいなー…みたいな」

少し照れながら、声を潜めて。

バカ、は照れ隠しだろうか。

もしかしたら俺よりも、こういうことには不器用なんじゃないかと思った。

でも、不器用に気持ちを伝えてくれるのは、俺にとってはすっごく嬉しい。

「なんたって俺様だからなっ!」

「スポーツマンは快活でいいよねー…」

「お、それも誉めてくれてんの?」

「…ばかっ」

ああほら、また。

その言葉でさえ、俺にはひどくいとおしい。

その口で素直な言葉なんて、無理して紡がなくてもいいんだ。

俺がそのぶんを汲み取るから。

お前は、お前のままがいい。

俺の好きな、不器用なままで。


不格好な愛

どうして私の歪な愛を、あなたは丸くしてしまうのでしょう。



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