ハロー、私のブルースプリング!



青い春、とかいて、青春。

そんなもの、無縁だと思っていた。

それほどに私の十代というのは冷めきっていた。

溶けてすらもいない、火のつかないロウソクのようだと思う。

「よっ」

「おー、直ちゃん」

そんな中、十代を全うしている私よりも暑苦しい先生。

私が点かないロウソクなら、先生はチャッカマンだ。

マッチ棒より、ずっと熱い。

「相変わらず冷めたヤツだなー」

「冷静沈着なんですう」

私は図書室で静かに読書中だった。

本の内容は、空想ファンタジー。

感情移入は特にしないけれど、というかできないけれど。

直ちゃんが勧めてくれた。「感動的なベストセラー」らしい。

あまり感動はしない。でも、直ちゃんに勧められて断れなかった。

「どうだ?この本。俺、今でも泣いちゃうんだぜー」

「泣かなかったよ」

「…ったく、今回もダメだったか」

私と直ちゃんは、賭けをしている。

直ちゃんがお勧めしてくれる本で、私が感動して泣いたら直ちゃんの勝ち。

私が泣かなかったら私の勝ち。

ここのところ、私の全勝となっている。

私は直ちゃんには嘘を付かないと約束をしたので、泣いたのに偽っているということはない。

本当に泣いていないだけだ。

「はあ…お前、琥太郎センセ並みに大人だな」

「レベルがよくわかんないよ、それ直ちゃんの匙加減じゃん」

苦笑混じりに本を渡すと、口を尖らせて受け取ってくれた。

と思えば、ころっと表情を変えてずいっと近づいてくる。

ばくっ、と耳元で心音がした。

「ぜってー泣かせてみせっから!」

にまー、と満面の笑みを浮かべる直ちゃん。

ばくん、ばくん。

滅多に動揺しない心臓が、苦しいくらい音をたてる。

そんなに至近距離にいないでほしい。

私が心臓発作を起こしたら、困るのは直ちゃんだ。

そう、これは決して、恋とか愛とかそういうものじゃない。

暑苦しさから来る動機だ。

じわじわと顔に熱が集まって、顔を隠す本もなくて、とにかく私は焦っていた。

今まで知らなかった感情が、自分を支配していくのがどうしようもなく恐ろしい。

すーっと静かに流れた涙に、直ちゃんもさすがに驚いたようで。

「ど、どした!?」

「違うし…べつに、私は…」

慌てて涙を拭ってくれる力強い手。

私と同じくらいの背丈の癖に、手だけは私より大きい。

この瞬間、私が涙を流したこのときに、私の苦しい青春が始まったのだと知った。

叶うはずのない恋慕の情。

それは、先程の小説に出てくる、王子に憧れる貧民の娘によく似た感情だった。

ハロー、私のブルースプリング!

私がお姫様だったらよかったのにね。




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