どうしようもない恋に溺れてしまっただけだから、
遠い遠いひと、だった。
幸せだけに囲まれているわけでもない、素朴でどこにでもいそうな女の子だったのに。
少しの影と朗らかな笑顔を持った、ただの優しい女の子。
「桜士郎、ついてるよ」
とん、と自分の口許を指差されて気がついた。
先程まで手元にあったソフトクリームのあとが、残っていたらしい。
「ん、ついてたのー?やだなーもう、早くいってよ〜」
恥ずかしくなって茶化しながら、袖で口許を拭おうとする。
すると、あ、と声をあげた。
「だめだよ、制服でふいちゃ」
くすくすと笑って、さくら色のハンカチが俺の唇にふれる。
鼻腔を僅かにくすぐる甘いにおいは、彼女の制服の香りだろうか。
するりと離れるハンカチ。
憧れの女の子と二人きりで、一緒にソフトクリームを食べて、適当なウィンドウショッピング。
はたから見ればカップルなのだろうけれど、残念ながらそれは違う。
好きな人への誕生日プレゼントを買いたい、と誘われたのだ。
胸になにか黒いものがつっかえる気がしたけれど、なんとか呑み込んで、いつものように承諾する。
彼女の中での俺の株が上がればいい、なんて思いながら。
なんて卑しい、女々しい男なんだろう。
どうしようもない恋に溺れてしまっただけだから、
はやくはやく、忘れさせてください。
0611
桜士郎も好きです。
なんだあの切ないイケメンな男は。反則だ!