どうか、余すことなく食べ尽くして



アイスの棒、ストロー、団子の串、エトセトラ。

ふと気が付くと、哉太はよく棒状のものを噛んでいる。

噛んでいる部分がぼろぼろになるまで噛んで、思い出しては捨てていた。




放課後、夏の屋上庭園。

「バニラとチョコレート、どっちがいい」

あちい、とぼやきながら夕方のベンチに座り込む。

階段に疲れたのか、なまえの額にも汗が浮かんでいた。

「バニラ」

「じゃ、チョコレートあげる」

「はぁ?」

ウソウソ、と笑ってバニラバーを差し出してくる。

天体観測でお世話になったから、と。

「さんきゅ」

珍しくほぼ全ての授業に参加した俺に、糖分はありがたい。

遠慮なく、とぱくりとアイスを口にすれば、冷たくてどこまでも甘い味がした。

「垂れてるよ、哉太」

「まじかよ。どこだ?」

探すよりも、なまえが手を伸ばす方が早かった。

指に垂れたバニラをすくいとって、躊躇なく口に指を含む。

「…お前な」

「バニラもおいしいね。甘いなー」

屈託のない笑顔を向けられては、ちょっとでもいかがわしいことを考えた俺が阿呆みたいだ。

夕方とはいえ暑い大気に、アイスはみるみるうちに溶けていく。

慌てて口のなかに収めたら、キーンとした独特の頭痛がした。

「ごちそーさん。うまかった」

「どういたしまして。…あ、」

お礼を言いながら無意識に、棒を噛む。

すると、なまえが少し困ったような顔をした。

「か、哉太」

「なんだよ?」

「…それ、当たりだ」

小さく指差されて、慌てて噛み潰す寸前の棒をだしてみた。

うっすらと印刷されている、当たりの三文字。

「…このアイス、当たりあったのか」

「ね、びっくりだよね」

初めて見たー、と携帯で写真をとるなまえ。

噛むに噛めない棒を手にして、少し寂しい口の中。

ガムでも持っていたらよかったのに、とため息をつく。

「…ああ、哉太」

「ん?」

「ちょっと目を瞑って?」

期待するべきか、しないべきか。

予想の斜め下の行動をするなまえだ、ゴミがついていたとかそういうことだろ。

そう自分を少し悲しい理由で納得させて、素直に目を瞑る。

…が、しばらくしても何のアクションもない。

いい加減痺れを切らして声をかけようと口を開けた。

「な…んむっ」

開けた口に差し込まれる、棒状の何か。

「噛みたそうにしてたから、私のあげるよ」

にこっと笑うなまえ。

口のなかに広がる、微かなチョコレートの味。

何かを噛んでしまう癖は、なまえもわかっていたようだった。

「さんきゅ」

少し苦笑いをしながら言うと、別にーと笑われる。

…少し間があって、気がついた。

チョコレートはなまえが食べていたアイスで、つまりさっきまでこの棒はなまえの口のなかにあったわけで。

関節キスよりもすげぇことしてないか、俺。

そーっと隣のなまえを見ると、なまえはとっくに気が付いていたのか、耳を真っ赤に染めている。

…俺はこの空気を、どうやって切り抜ければいいんだろうな。




どうか、余すことなく食べ尽くして



自分でやってから照れるなんて、自爆してるようなものじゃないの。






0609
郁センセの誕生日になにやってるんだろう。
噛み噛みするのは可愛い。




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