きみの言うとおりだよ



心がぽっかりとした感じ。

そういいながら、少し疲れた顔でなまえは僕のそばに来た。

屋上庭園には誰もいなくて、吹き抜ける夜の風が肌寒い。

「もっとこっちにおいでよ」

間隔を開けて座るなまえに手招きをする。

照れてなかなか来てくれないのがもどかしくて、待ちきれずに抱き寄せた。

「っ…よ、羊」

「僕の所に来てくれたのに、そのなまえが冷えたら大変だからね」

安心させるように笑いかけると、ほっとしたような目をみせる。

まだ短い付き合いだけど、こうしてなまえが安心できる位置に自分がいるのが嬉しかった。

そのまま、僕以外のところでは安心しないでほしい…なんて言ったら、なまえはどんな反応をするんだろう。

「…今日はどうしたの?」

「んー…よく、わからないんだけど」

なんとなく、来なきゃいけないような気がした。

そう言って身を預けてくる。

…彼女は、星詠みの力を持っていた。

ただ、星詠み科に入るほどの強い力を持ち合わせていなかったそうだ。

ぼんやりと感覚的にしかわからない未来は、直感に近い…らしい。

本当はその歯痒さですら共有したいと思うのに、それができない自分が歯痒かった。

像を結ばない、ぼやけた未来。

僕に関係する、心に穴が開くような、そんな未来。

それは頭の片隅にいつも置いていた、僕と両親の夢を思い起こさせた。

僕の帰国はつい先日決まったばかりで、まだ錫也たちにも、先生にすら話していない。

僕だけの秘密のはずだった。

「…羊のところに来なきゃいけないような気がして」

「…なまえ、正解だよ」

きょとん、とした顔をするなまえを、今度はしっかり抱き締める。

別れでこの繋がりが切れてしまうのが怖くて、言い出せなかった。

そんな僕に気がついてくれた人は、誰よりもいとおしい人。

それだけで、僕は。


きみの言うとおりだよ


君に一番に別れを告げることができて、僕はとても幸せなんだ。

次に会うときにもこうして、僕に抱き締められてくれるかな…。


(あなたがすきですって、いいそびれてしまったじゃないの)




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