つまり、「あいらぶゆー」ってことさ!




いつもお前は先に行く。

ゆっくりと歩いてその後をついていく俺は、保護者の気分だ。

桜並木は青々とした葉を繁らせて、春の面影はどこへやら。

つい先日は、甘い春の香りを漂わせていたと言うのに…。

今日は特に日が強くて、上着を脱いでも足りないのか、なまえはシャツの袖をまくっている。

すっかり夏らしい姿になっても、先に行く姿は相変わらずだ。

「おい、もうちょっとゆっくり歩いてもいいんじゃないか?」

「夏はまだまだ先に続いてるんだもん。一樹みたいにゆっくりしてたら、夏に置いてかれちゃう」

私はまだ若いからね、と笑いながらも、やはり彼女は歩む足を止めない。

本当は俺が先に行きたいが、後ろに置いていったら気がついたらいなくなりそうだ。

横に並べばいい話なのに、何故かそれはしたくない。

…いや、何故か、なんてわかっている。俺に関わる人は、不幸になってしまうから。

かすむような空の青と、繁る緑に覆い隠されてしまうようななまえを、見つけ出してやることなんてできない。

見つけたって、手をひいてやるなんてできない。

自分の手を見つめて、無力さに悔しくなってぎゅっと拳をつくる。

気がつくと立ち止まってしまっていて、遠くにいたはずのなまえが目の前にいた。

「どした、一樹」

顔を覗きこむようにして、無表情のような、少し眉根を寄せたような顔をする。

「なんでもねーよ、ほら、夏においてかれるんだろ?」

すっと並木道の向こうを指差しても、なまえは微動だにしない。

「…一樹も」

「ん?」

「一樹も、一緒に行こう?」

すんなりと手をとって歩き出すなまえに何も言えず、手を引かれるままに歩き出す。

やはりなまえは先を歩く。

先程より距離を詰めて尚、先へ歩く。

「一樹も一緒に、夏へいこう」

「…一緒に?」

一緒に、という言葉を、宝石のように大切に言うから。

「うん、一緒。秋と冬も、もう一回春も」

楽しそうに、本当に楽しそうに言う。

たった今諦めたはずの隣に、俺を導いてしまうなまえ。

くい、と優しく引っ張られて、細い並木道を並んで歩く。

「…つまり、どういうことだ?」

「まだわからんか…一樹は駄目だなぁ、修行が足りんよ」

にんまりと笑うなまえが、ピースサインを突き出して言った。


つまり、「あいらぶゆー」ってことさ!


不幸になったっていい、私は君にあいらぶゆーだ。





能天気なようでイロイロ考えている女の子と、考え過ぎてオーバーヒートしそうな一樹さん。





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