そうでなければ何だと言うのか





「おい」

白い肌に伝う、赤。

そんなもの今まで腐るほど見てきた。

こいつも例外ではない。

任務の度に、擦り傷切り傷打ち身等々、怪我は増える一方だ。

先日なんて頭を酷く打ち付けたまま戦い、終わって気が緩んだ瞬間にぶっ倒れて運ばれたくらいである。

だが、怪我の治りは早い方なのか、いつのまにかその肌は痕を残しつつも綺麗な白に戻る。

「ん?」

くるりと振り向いた顔はきょとんとした阿呆面で、どうやら気がついていないらしかった。

右のこめかみの小さな傷から、つぅっと一筋血が滲んでいる。

どこかでぶつけたのだろうか。

ざわざわと人の多い食堂だ、誰かとぶつかっても不思議ではない。

空いた横の椅子に座ると、なまえはちょうど昼飯を食べ始めたところらしかった。

食べかけの日本食。

「…こめかみ、痛くねぇのか」

「え、何かなってる?」

スプーンを置いた右手がこめかみにかかる。

…それを阻止したのは、あろうことか自分の左手だった。

「え、かん…」

だ。

そう言い終わる前に、唇を傷口に寄せる。

軽く伸ばした舌を押し付けると、苦い鉄の味がした。

「ッ…い、っ」

握ったままの右手がピクリと反応した。

きゅっと緩く握られた、傷跡の残るその手。

傷を舐めるように、抉じるように舌先で弄ってみる。

「か、かんだ…、ゃ」

身を固くして、徐々に頬が朱を滲ませていく。

嫌なら抵抗すればいいのに。

されるがままに真っ赤になっていくのが可愛くて、伝った赤を細く舐め上げると、小さく高い声が出た。

「ぁ、」

可愛い。

ちゅう、と軽く吸って離すと、首まで赤いなまえがいた。

「…あのー、オフタリサン?」

「…あ?」

背後の声に振り向くと、そこに赤毛がいた。

馬鹿兎か。

「ココ、食堂デスヨ。ってゆーか、何、ユウとなまえって付き合ってたんさ?」

オレ初耳さ。

そう手をひらつかせる兎に言われ、よくよく考えれば辺りのエクソシストや探査部隊の面々の視線が刺さっている気がする。

そしてなまえと自分はそもそも付き合ってなど、いない。

…自分は何をしていた?

「…あァ、悪い」

ぱっと握った手を離す。

テーブルの上に置いてあった濡れ布巾で、ごしごしとそのこめかみを拭いてやる。

自分のなかではかなり混乱しているのだが、それを表に出してはかなり長い間の笑い話になるだろう。

…冗談じゃねぇ!

「…飯、冷めちまったか。悪いな」

未だに赤いままの顔を直視できず、ぽんとその頭を叩いて通り過ぎる。

顔が僅かに熱いのは、この人混みのせいだろう。

…そうに、決まってる。


そうでなければ何だと言うのか

舌先が痺れて、甘ったるい。



0123
神田さんは、えろい。






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