どうか、さめないで




「っ、」

帰ってくるなりこれか。

酒の匂いを漂わせて部屋に入ってきた。

神田はいつからか、酒に酔うようになっていた。

「…なまえ」

抱き締められ、首に顔を埋められ。

酒のお陰か神田がいつもより暖かい。

伝わる温もりにすり寄ると、ぎゅっと強い力が返ってきた。

頬に柔らかい感触がした。

いまだに緊張するそれに、鼓動が少しだけ早くなる。

リップ音を立てて、頬へ、額へ、そして。

重なる唇は、苦い酒の味がする。

入り込んでくる舌も、慣れることはない。

雰囲気に少し慣れただけだ。

独特の感触が口の中でうごめいて、ぞくり、と悪寒にも似た感覚が走る。

悪寒というよりかは、快感に近い。

応えるように舌を動かすと、満足そうに神田は瞳を薄く開く。

目線が合うのが恥ずかしくて、自分は閉じてしまうのだが。

神田の手が後頭部と腰にそれぞれまわって、ぐっと固定される。

「んっ、…ふ」

酒のせいか。

一層激しくなるキスに加え、時折くちゅりと水音がして、耳までぼんやりとしてくる。

ゾクゾクするほど気持ちのいいキス。

胸の辺りがぎゅっとして、たまらず神田にすがりつく。

「ふぁ、っ…んぅ…」

「ん、」

腰に回っていた手が、宥めるように背中をさする。

ひとしきり堪能したらしく、名残惜しげに舌を吸われて、やっと唇が離れた。

唾液に濡れた唇を拭う指が優しい。

頭の芯までぼんやりとして、胸がどきどきしてとまらない。

安堵を求めて抱き付くと、誘ってんのか、とからかわれた。

神田は私に、手を出さない。

「誘ってない…」

「だろうな。…、と」

ひょいと軽々しく抱き上げられ、ベッドに腰掛けた膝に座らされる。

後ろからぬいぐるみでも抱き締めるかのように、私を抱き締めるのが神田の癖だった。

肩の辺りに神田の顔がきて、そのまま首筋に顔を埋める。

さらさらした髪の毛が少しくすぐったい。

「いい匂いでも、する?」

「…かもな。あったけぇ…」

すり寄るように、額を押し付ける。

先程まで男の片鱗を見せていたくせに、こうした行動は妙に子供っぽい。

そのギャップは、恐らく私しか知らないだろう。

「…神田」

「んだよ」

「もっかい。」

上半身を捻り、その肩に腕をまわして頬に口付ける。

軽く舐めて、もう一度。

私のキスは稚拙だ。

その稚拙さが「クる」らしく、こうして意図的にしてみると、あまりにも簡単に神田のスイッチは入る。

座っていたはずのベッドに押し倒され、貪るようなキスを受ける。

行きをつく暇も無いほどに、深い口付けを繰り返す。

それを望んでこうして誘っていることを、神田はわかっているのだろうか。

「っお前な…」

ちゅくっと音をたてて唇が離れる。

顔が、熱い。

「なぁに、ユウ」

「…我慢できなくなるからやめろ」

「ごめん」

起こした体に抱き付く。

神田から離れたくないのだ。

子どものようだと、自分でも思う。

「オラ、寝るぞ」

「もう?」

「眠ぃんだよ…たまにはいいだろ」

ぎゅぅ、と抱き締められてそのままごろんと横になった。

暖かい体温と神田の匂い。

あっという間に睡魔が訪れて、添うように神田のほうへと潜り込んだ。

この暖かさが消える日は、いつなのだろう。

そんなことを、かんがえながら。


どうか、さめないで

覚めないで、冷めないで、醒めないで。



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