傷つけずに愛して







ぱちん、ぱちん。

たった今まで彼のの一部であったそれは、いとも容易くゴミとなる。

綺麗に弧を描いた爪先を見て、心なしか頬を緩ませる姿があった。

一樹だった。

「爪、きってたの?」

「おう、なまえか。ああ、結構伸びてきたんでな」

手をずいっとこちらへ向けて、ほら。と見せる。

成程、先程まで切っていた中指と、まだ手を付けていない薬指とでは随分違う。

「伸びるの早くない?」

「そうか?普通のつもりなんだがな…」

「こんな爪じゃ、引っかかれたら切れちゃうかも」

冗談混じりに笑うと、にんまりと一樹が怪しい笑みを見せる。

「…何、気持ち悪いな」

「いーや?なーんにもないぞー」

わざとらしいその言い草に、問い詰めたいと思ったが、またぱちんと音が響いたので口をつぐむ。

二人だけの生徒会室で、外は特に天気が悪いわけでもない。

ただ平凡な平日の放課後だった。

トラブルメーカーの後輩も、裏番長の副会長もいない生徒会室。

暇つぶしになるものは携帯くらいだが、仮にも恋人と二人きりで携帯弄りもいかがなものか。

ソファの隣に失礼して、爪を切る一樹の肩を借りる。

ぽすっと寄りかかると、抵抗する素振りもなく、一樹はただ笑うだけだった。

「なんだ、甘えたくなったのか?」

「…駄目ですかね、彼氏様」

「大歓迎だよ。お前は可愛いなぁ」

嬉しそうに一樹が笑う。

もうすぐ切り終わりそうな、引っかかったら切れそうな爪。

でも、一樹が私に触れるとき、私を傷つけるほどに伸びた爪は見たことがない。

…触れるといっても、身体をまさぐると言ったほうが正しいのだろうか。

そこまでくるくると思考を回してハッとした。

自分でもわかるほどに顔に血が集まるのがわかる。

一樹が爪を切る理由を悟ってしまったから。

思い込みであればいいとも願ったけれど、私の顔をにやにやと眺めているあたり、予想は的中しているのだろう。

「…え、えろおやじ…」

「おい、今なんていった?」

「ばかっ」

現在の状況を考えても、今日はこないであろう後輩達のことを考えても、ぐっと迫る一樹との距離を考えても。

出てくる答えはやはり一つしかなくて、狭いソファをじりじりと後退する。

「…なんで俺が今日、爪切ってたと思う?」

優越感たっぷりに笑う一樹を睨んでも、効果は全くないようで。

いつの間にか爪切りは終わっていて、丸みを帯びた爪が伸びてくる。

頬に触れて、首筋をすべって、制服のスカーフに指をかけて。

柔らかな指先の感触ばかりで、鋭い爪の痛みはどこにもない。

しゅるり、と小さな音と共にスカーフがほどければ、あとはもうなされるがまま。

ソファのスプリングが、ぎしりと音をたてた。





(大事なお姫様は、大事に扱わなきゃだろう?)








――――――
H24.4.17
えろおやじな一樹さん。









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