まとわりつく夏





「何してんだ、なまえ」


見上げたのは真っ青な空と白い雲。

典型的な夏の空だ。

その中にこちらを覗きこむようにして立つ人がいて、

肌が死にそうな白をしていた。

「…寝てた…今何時?」

「12時ちょい過ぎ」

「うわ、最悪。3限の間だけと思ってきたのに」

「…寝過ぎじゃね?」

よっこいしょ、と恐らく若者の口から出るには早いであろう声と共に、哉太は隣に腰を降ろす。

芝生を払いながら身を起こすと、くらりと軽い眩暈がした。

木陰から見る景色はやけに鮮やかに見えて、強い太陽の光がそれを一層強調する。

汗ばんだ首筋も気だるい気温も、校舎に反射する光でさえ、私に夏だと話しかけているようで。

もう十分夏の存在はわかっているのだから、少しやる気を抑えてくれないか、と思う。

「哉太は?今お昼でしょう」

「食欲ねー」

「食べないと倒れるよ」

「んなことねー」

具合が悪くて休みに来たのだ、とすぐにわかる。

こんなに暑いのに血色は良くない。

触れればひやりとしそうだ。

「眠いの?」

「まぁな」

返事はあまりにも素っ気無い。

その素っ気無さが、私は好きだ。

飾るのが何よりも苦手で下手で、ストレートにぶつかったかと思えば穴に消えてしまうような、

自由気ままで掴みどころがない、泳ぐ魚のような性格が。

「今なら膝空いてますよ」

「ばっ…んな恥ずかしいこと、できるかよ」

「…じゃあ、一緒にもうひと眠りしよう」

本当はお腹が減っているし、もう寝飽きたから瞼さえ閉じる気にもなれないのだけれど。

ここに一人ぼっちで哉太を置いて行ってしまうくらいなら、寝顔を眺めていたほうがずっと有意義だ。

にい、と口の端を上げて笑顔を作ると、哉太は少し眉根を寄せる。

骨張った長い指が伸びてきて、ぐにっと両頬を引っ張られた。

「…なにひゅるんれふか」

「お前のその笑顔、俺は好きじゃねぇ」

作り笑顔。

たまにやってしまう。

「わかりまひたはらやめへくらはい」

「何言ってっかわっかんねー」

手加減された力で頬がのびる。

くっと笑う目に、少々歪んだ視界が釘付けにされた。

じわり、と血が顔に集まった気がした。

汗ばむ暑い気温のせいにしようとしても、耳まで赤くなってしまえば少々無理がある。

触れた指はひやりと私の頬を冷やすが、それだけでは足りなかったようで。

くらり、とまた眩暈がする。

うっとおしいほどの夏よりも、君の笑顔のほうがずっと危険だ。










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