心は常に青く在ったのだ




日に焼けてそれなりに黒い肌とか、毛先にいくにつれて色素がすこし抜けてる髪とか、

こげ茶色の目とか、よく痣をつくってる足とか、

とにかく彼女は活発で、元気で、それなりに女の子だった。

得意なことはブランコと自転車の立ち漕ぎ、階段の二段飛ばし、授業中にこっそり寝ること。

そんな儚さとはかけ離れているのに、真っ青な空を見つめる瞳だけは、綺麗だった。

いつか青い目になっちゃうんじゃないか、ってくらいに、窓の向こうを見つめる人だった。

「そんなに空ばっか見てたら、目が焼けるぞ」

強い太陽に焦がされて、いつか俺を映さなくなるんじゃないか。

それは具体的であり、抽象的な俺の中の考えだった。

ホントに焦げちまうかもしれないし、太陽みたいに惹かれる奴に、視界を狭められるかもしれない。

俺にしてはよく考えついたなって思うくらい。

「哉太が星空をみるなら、私は青空を見ていたいんだよ」

「…は?」

なまえの背後のソフトクリームみたいな入道雲が、眩しかった。

視界が点滅するみたいにくらんで、たまらず目を閉じる。

瞼に透ける太陽の光が、目の前を赤く染めた。

「お前、まぶしくねえの」

手で目に日陰をつくってから、ゆっくりと赤い瞼を持ち上げる。

相変わらず青い空は赤い瞼と対象的で、でも決して冷たい青じゃなかった。

あついあつい、溶けそうなほどに熱を持った青。

甘く溶けていく入道雲。

「哉太をみるより平気かな」

「なんだよ、それ」

「哉太は眩しいからねぇ」

髪のことか?

そう聞いたら、ふるふると首を振るだけで終わった。

抽象的なことはよくわかんねーから、俺も考えることはしなかった。

「…あついね、哉太」

「溶けそうだな」

「アイス食べたい」

「…パシられねえぞ」

「あは、やっぱり?」

予想してたんなら、最初から言うなよ。

「食いにいこうぜ。俺もう限界」

「ええ、もうちょっとだけ」

ね。

にっこりと笑う笑顔に、俺の手を引くご褒美付き。

そんなねだり方されたら、断れない。

でも、俺の手を引いたその手は、少し冷たかった。

「…具合悪いのか?」

「ううん、ちょっと寒いだけ」

「悪いじゃねえか」

溜息をついて、引かれた手を引き返す。

僅かに留まろうと力が入ったけれど、もう一度強めに引けばその抵抗はすぐに消えた。

「いくぞ」

「…うん」

名残惜しげに、もう一度振り返ってからついてくる。

「なあ、なまえ」

「ん?」

「なんでいっつも空みてんだ?」

場を保てなくなりそうで、いつも思う質問をぶっつける。

ちょっとしくったかな、と思ったけど、もう言葉は取り消せない。

「…眩しいものに、ちょっとでも慣れたくて」

「…わけわかんねえ」

「哉太のおつむじゃわかんないか」

「うっせ」

おどけて笑われて、それ以上答えてはくれなくて。

眩しいものに慣れたからって、なんだっていうんだ。

慣れたって、見つめ続けたらきっと目が潰れてしまう。

そうしたら、お前は二度と…

と、そこまで考えて。

「…あのな、俺のおつむは優秀なんだからな?」

「どの口が言うか」

「俺を見たくて外見てるくらいなら、最初から俺を見ろってことだよ」

最近、俺は冴えてるのかもしれない。

だってその証拠に、先程まで冷えていた手が俺より熱くて、達者な口は閉じている。

なあ、ちゃんと言ってくれないとわかんねーんだよ。

俺のアタマが悪いと思うなら、尚更な。



心は常に青く在ったのだ



空を見つめていたら、心まで青臭くなったみたいだ。




0723
晴れた日には青臭い話が書きたくなります






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