死角のワガママ




後ろからするりと手をかけて、首にすがりつくようにして腕を回す。

ぎゅう、と苦しくないようにしがみつけば、首の温度が冷えた腕に伝わって心地いい。

「なん、だよっ?」

明らかに動揺した声が面白い。

こんなことをしても、べつに付き合っているわけではないのだから笑えてしまう。

冗談だよ。

その一言で、どんなアピールも簡単に消えてしまう。

「寒くてさあ」

「ああ、今日寒いよな…って、こんなことする理由にならねえだろ」

剥がれろ、とばかりに腕を捕まれた。

「人肌ってあったかいしさー」

「…月子にでもやれ」

「やだよ、月子にやったら月子が冷えちゃう」

真面目にそういうと、深いため息がひとつ。

空気の抜ける音みたいだ。

「あのなぁ…」

「私は女の子には優しいの」

「ハイハイ、そーですか」

諦めたように天体写真集を広げる哉太。

あ、ひどいなぁ、私を無視して自分の世界に入り込む気だ。

パラリ、と捲られる写真を、後ろからのし掛かるようにして覗きこむ。

宝石箱よりもずっと綺麗な、深い深い黒に光る星。

触れたら火傷してしまいそうな赤、深海のように重たい青、砕けたガラスのように散らばった白…

こんな世界が青い空の向こうに広がっているなんて、考えただけでわくわくする。

…と、先程からページが捲られない。

ん?と思って横から哉太を見ると、耳まで真っ赤にして固まってしまっている。

「ど、どしたの…?怒ってる?」

「…か、か、構ってやるから…その、そこから、ど、どけ!」

そこ?そういえば、随分と哉太に負担をかけるような体制をしてしまっている。

胸を押し付けてしまうような…

「さっさとどけよ…!」

…なるほど。

「構ってくれるならいいよ」

「構うっつっただろ!」

「しょうがないなあ」

腕を解いて密着していた体を離すと、ほっとしたようなため息。

それでも顔に一度集まった熱はなかなか引かないようで、赤い顔を隠すようにそっぽを向いてしまった。

「哉太、構ってよ」

「うるせぇ」

「…ね、かなた、もっとこっちを向けなくしてあげようか?」

「なにを…」

「好きだよ」

引きかけた赤みが戻る。

余裕綽々で言うのか、と思われてるんだろうな。

もう少し、こっちを見てくれたらいいのに。

そうすれば、私が真っ赤なのがわかるのに。


死角のワガママ

もっともっと、こっちを見て。私を死角にしないでよ。





0709





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