約束してください



優しく鍵盤を弾いていた指は、いつの間にかとまっていた。

颯斗のピアノが朗々と響く音楽室は、あまりにも心地良い空間で、思わず瞼を閉じてしまっていた。

うとうとしていた、と言ったほうがいいのだろう。

ゆるく融けてしまうような意識の片隅で、カタンと椅子を引く音が聞こえる。

そのままピアノを弾き続けてくれればいいのに。

そうしたら、この微睡みの中に閉じ込められるように、颯斗の側で眠れるのに…。

そんな我が儘なことを思いながら、瞼を開ける気にもなれずにいた。

すると、カツカツと少し控えめな靴音が近付いてくる。

起こすつもりだろうか。

頬に優しく、長い指が触れた。

ヒヤリとした指は気持ちよくて、少しドキドキしてしまう。

「…なまえさん、あなたって人は…」

甘い、かすれ気味の柔らかな声。

「どうしてそんなに、無防備なんでしょう」

憂いを含んだような声色。

小さくため息をついて、頬の手に少し力が入るのがわかった。

ゆっくりとした動きだったから、私は拒もうと思えば拒むことはできた。

それをしないのは、キスされるのを期待していたからかもしれない。

ゆっくりと近づいてきて、吐息がかかるくらいの距離になる。

少しためらったように引いてから、もう一度近づいて、唇が重なった。

触れるだけの、少し長いキス。

私の心臓が耳元にあるんじゃないか、と思うくらいにドキドキとうるさくて、

颯斗に聞こえていないか心配になる。

するりと離れた唇と手。

…完全に起きるタイミングを見失ってしまった。

どうしたものかと困っていると、

にゃあ。

と一声、猫がなく。

窓辺にいたのだろうか。

すると、颯斗がくすっと笑う声が聞こえた。


「…Promise me that you won't tell anybody」



誰にも言わないと、約束してください。



起きているのを知っていながら、キスをしたということを。




0611
確信犯颯斗。
猫に約束させちゃうのかっていう。




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