雨の束縛




突然の雨だった。

朝は青空が広がっていたはずなのに、時間が経つにつれて空に雲が広がり、帰り際で降りだしてしまった。

ちょうど俺は校舎内にいたからよかったものの、外にいたやつらはずぶ濡れなんじゃないだろうか。

そうぼんやりと考えている間にも、窓をしきりに叩く雨は大粒となり、叩く音は強くなる。

遠くで時折、雷が光っているのが見えた。

通り雨、夕立といったところか。

そんなものは関係ない、と目の前に積まれた、俺に捌かれるのを待つ書類たちを見て、小さくため息をつく。

「ったく…なまえのやつ、手伝うとかいっときながらこないじゃないか」

「なまえさんの手がなくても、しっかり終わらせてくださいね、一樹会長」

にこりと微笑む颯斗の視線がいたい。

なまえが来ないことを理由に手をつけていないのはバレバレのようだ。

しょうがない、とペンを手にした瞬間、目の前に別の風景が見えた。

一瞬だったがはっきりわかる。

強い雨と遠くの雷に怯えて、動けなくなっているなまえが。

「…っ」

ガタンと音をたてて立ち上がると、颯斗の制止も聞かずに生徒会室を飛び出した。




なまえは案外、すぐに見つかった。

しかし状況がいまいち把握できない。

両手を何故か後ろで縛られている。

だが本人は特に怯えている様子もない。

先程見えた怯えはなんだったのだろう。

「…なにやってんだ?」

呆れた声で聞くと、なまえは苦笑いをしながら口を開いた。

「いやー、皆でこうなっちゃったときにどうすれば抜けられるか、っていう話をしてたんだよね」

「…はぁ。」

話の流れがなんとなく見えてきた。

「で、それでやってみようって縛ったはいいんだけど、ほどけなくなってさ」

「縛ったやつらは?」

「ほどけなくなったらタイミングよく雨が来て、校舎にいっちゃった」

「お前は?」

「…縛ってるから上手く立てなくて、追いかけられなくてこのまま…」

なんて阿呆な理由だ。

どこから突っ込めばいいかもわからん。

座り込んだままへらへら笑うひめのには、まるで危機感がない。

雨に濡れたスカートが足にはりついているし、そこから伸びる足も濡れている。

夏服ももちろん濡れて、うっすら透けて
いて、正直生唾を飲みたくなる。

俺以外に見つかっていたら、どうするつもりだったのだろう。

「…びっちょびちょじゃないか」

「いい女でしょ?」

ふざけた調子で笑う。

俺には冗談にはできないことなんだが。

「それは認めるが…お前は危機感なさすぎだ」

「みんな悪い人じゃないよー」

「バカなやつらもいるんだよ」

しゃがんで目線をあわせてみる。

途端に近くなる顔に照れたのか、なまえが目を見開いた。

「…一樹?」

「ほどいてやる」

後ろにまわって、細い紐に手をかける。

雨に濡れて摩擦が強くなったのか、なかなか外れてくれない。

時折くっとなまえの手首に食い込んで、赤く痕がついた。

「痛いよ、一樹」

「外れないんだよ、ったく…」

小さく舌打ちをして、力任せに紐を千切る。

ふと顔をあげれば、なまえは既に濡れ鼠になっていた。

「こんなに濡れて…お前は悪い子だな」

「子どもじゃないし…」

言い方を少し捻ると、意図がわかったのか耳を赤く染める。

かわいいやつめ。

「…駄目だ、外れん。一回校舎にいくぞ」

「この状態で?」

「歩けるだろ」

ひょい、と抱えてなまえを立たせると、少しふらついたが歩けそうだった。

本当は抱っこでもしてやりたいが、照れて拒否されそうだからやめておく。

「雨、強くなってきたね」

「雷が落ちないうちにいこう」

歩き出そうとして、右手の傘の存在を思い出す。

「…なまえ、ほら」

寒そうに身を縮めるなまえに、傘を開いて手招きする。

「これが欲しかったんだろ?さっきからやけに頭ふってるしな」

「…相合い傘?」

「そうなるな」

「一樹がしたいだけじゃなくてー?」

「…いれてやらないぞ?」

「は、入る入る!」

慌てて傘下に駆け込んできた。

その姿にくすりと笑って、冷えた肩を抱く。

「ほら、帰るぞ」





お世話になってます、ひめちゃんへ。
ちょっと無理矢理な両手縛りだったので、いつかちゃんと縛ってあげたいです。
もちろん、一樹さんが。




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