※アニメ添い
※最終話後
※男気全開だけど那翔
※というか那→翔






 那月は俺をクッションかぬいぐるみか何かと勘違いしてるんだと思っていた。「可愛い→抱きしめる」という短絡的な思考が俺は少し寂しかった。例えば俺がいきなり背が伸びてそれこそ日向先生みたいにかっこよくなったら那月は俺に興味をなくすのだろうか。所詮、俺は那月の大事なピヨちゃんやウサちゃんと同列で、取り立てて興味の対象ではないんだ。そう思っていた。
「翔ちゃん。」
 ST☆RISHのデビューライブを終えて打ち上げの後、寮の部屋に戻ろうとしたら那月が急に俺を呼び止めて星が見たい、なんて言い出した。他の奴らはさっさと帰ってしまったし仕方なく俺は那月と寮の屋上に忍び込んだ。近頃、厳しくなった消防法やなんかで建前上は立入禁止の屋上もシャイニング早乙女の無法っぷりの前では効果はないようで、学園長自らが屋上を使ったオリエンテーションなんかを提案してきたりもする。つまり忍び込んだと言うよりごく普通に屋上にやってきた。
「あ、今日はお月様が綺麗ですよぉ。」
 墨を塗ったような夜空は月と星だけを浮かべて、夜風は少し冷えていた。
「あー…そうだな。でも北海道の方が月も星も綺麗なんじゃねーの?」
 一度だけ家族旅行で訪れた那月の故郷の北の大地を思い出しながら腰を下ろして空を仰いだ。那月はそうですね、と俺の言葉に同意してそれから俺と夜空の間を遮るように立った。
「翔ちゃん、聞いて欲しいお話があるんです。」
 月明かりを背に立つ那月の淡い色の髪がキラキラと夜空に浮かんで風に揺れる。綺麗だな、と思いながら眼鏡越しの瞳に目を合わせる。
「何だよ。改まって。」
「あのね、翔ちゃん。」
 那月の白い肌が逆光でも映えて白い。月なんかより那月の方が綺麗だよな、とくだらない考えに至って苦笑。那月がしゃがみ込んで俺と目線を近付ける。
「ライブが成功したら言おうって決めてたんです。」
 柔らかく微笑む顔に思わず心臓が跳ねた。こりゃそのへんの女はイチコロだよなぁ。
「僕は翔ちゃんが好きです。」
 そうしてその甘い顔で甘い声で甘い台詞を言えちゃうんだからすごいよな。俺は絶対恥ずかしくて言えない。俺も好きだぜ、と返そうとして口を開けばその声は那月の唇に全部奪われて音にならなかった。
「…翔ちゃん。」
 今まで何度も抱きしめられたけどキスなんてされたことなかった。唇が触れたまま俺を呼ぶ声が耳から全身を溶かしてしまいそうな熱を孕んでいる。それからいつもより優しく抱きしめられた。力一杯じゃなくて優しく体温を共有する為のハグ。
「那月…?」
 状況を認識することにいっぱいいっぱいで頭が追いつかない。いつもより那月の体が熱い気がして名前だけを呼んだ。
「翔ちゃんは、翔ちゃんは…僕を裏切らないよね。翔ちゃんは傍にいてくれるよね。」
 那月の声は切れてしまいそうに震えていた。いきなりキスなんかされて頭はそれどころじゃないのに、目の前の那月が壊れてしまうんじゃないかと怖くなった。
「バカ…。何ワケわかんねーこと、言ってんだよ。」
 どうしよう。どうしたらいい?那月の呼吸が耳元を擽ってそれに合わせる様に心臓が早鳴る。キス、初めてだったのに、よりによって那月と、男と、しちまった。いつもみたいにドカーン!バーン!って来られたらこっちだってリアクションのしようがあったのに。こんなに静かな那月に俺はどうしていいんだ。
「翔ちゃん、逃げないで。お願い。」
 那月は甘い香りがした。あの殺人兵器の菓子も香りだけはいつもいい。那月の肩越しに月を瞳に映してここにはいないあいつのことを考えながら那月の頭をポンポンと叩いて撫でてやる。
「ったく、お前は本当に世話が焼けるよな。」
 まだこの時、那月の気持ちの半分も理解していなかったけど、俺は那月を突き放す気にはならなかった。この大きな子供を泣かせたくはなかった。





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