※「二度目の」の続編
※音トキです間違いなく
※音也視点







 トキヤに初めてキスした日のことはよく覚えてる。いつも自信があってキラキラしてるトキヤが暗い顔をしてて、どうしたのって聞いても答えてくれなかった。でもすごく心配で30分くらい問い詰めたらバイトで失敗したとか言ってた。トキヤはいつも一人で頑張ってるからつらくても絶対言わないのに今日は少しでも俺に話してくれたのが嬉しくてぎゅって抱きしめたらトキヤの顔が少し赤い気がした。
「トキヤが誰より努力してるって知ってる。」
 俺はずっと見てるよ。トキヤがどれだけ頑張ってるか知ってるしトキヤはすごいと思う。
「俺は頑張ってるトキヤが好きだよ。」
 そう言ったらトキヤが眉を寄せて俯いてしまった。あ、かわいい。いつもクールなトキヤにこんな表情があるなんて知らなかった。そう考えてたら自然に顔を近付けてキスしてた。トキヤには突き飛ばされて怒鳴られた。

「当たり前だろう。」
 そのことをマサに話したら呆れ顔で言われた。
「一十木、お前は何がしたいんだ。」
「何って別に、トキヤと仲良くしたいだけだけど。」
「それならば距離を保て。思い付きや勢いだけの口づけなど関係を壊す原因にしかならない。」
「でもトキヤがかわいくてさ。」
「ならばお前は…俺にも同じことをするのか。」
「いや、だってマサは可愛くないし。」
 マサの血管が弾ける音が聞こえた。
 そうなんだよな。同じようにアイドルを目指すマサも那月もすごく綺麗な顔をしてる。那月なんか声も優しいし女の子なんかよりかわいいんじゃないかとも思う。けど俺がかわいいと思うのはトキヤだけ。そのあとトキヤに謝ろうとしたけど失敗しちゃって、それはマサには話せなかった。俺の顔に水をかけたトキヤの顔が痛々しくて、軽く人に話していい気がしなかったんだ。
 トキヤは最近部屋に帰って来ない。バイトが忙しいのかな。そんなにバイトを増やして身体を壊さないのか心配だよ。一日だけ、トキヤのベッドで眠った。トキヤが帰ってきて俺を叱ってくれないかと期待して。けどトキヤは帰って来なかった。
 トキヤが帰ってきたのはその翌日だった。俺はいつも10時には眠くなっちゃうから起きてるのは大変だったけどトキヤが帰ってきたらちゃんと話がしたくて、目を擦ってた。時計が深夜2時を差した頃、意識が遠退いた。もうトキヤは帰ってこないかも知れないとも思った。そしたら静かに扉が開いて一気に目が覚めた。トキヤが帰ってきた。嬉しい。トキヤに会いたかった。俺はトキヤを傷付けちゃったから、謝らなきゃ。会いたいとかちゃんと話さなきゃなんないとか思ってたのにどう話そうかとか考えてなかった。いつもの調子で話し掛けたらトキヤが泣きそうな顔してて、気付いたらキスされてた。びっくりして肩を押してみたけどびくともしない。細い身体なのに力はあるんだな。やっぱり男だもんなぁ。初めての俺のキスなんかとは違う、熱っぽくて何度も吸い付くようなキス。こんなの初めてでびっくりした。トキヤどうしたの。わかんないよ。トキヤの体重を支えきれなくて床に背中をぶつけた。やっと唇が離れたと思ったらトキヤが泣いてた。
「私は、貴方が欲しい。音也が、欲しくて仕方ありません。」
 欲しいってなんだろ。トキヤは俺が欲しいの?なんでトキヤは泣いてるの?俺はトキヤをすごいと思うよ。トキヤをカッコイイと思うよ。トキヤと仲良くしたいしトキヤの色んな顔が見たい。トキヤはそうなの?そうじゃない?俺と仲良くしたくない?
「わかったら以降、私に構わないで下さい。」
 どうしてそんな悲しいこと言うのさ。どうしてトキヤと仲良くしちゃダメなの。トキヤだってそんなに辛そうな顔して本当は思ってないじゃん。トキヤは俺にキスしたいの?されたくないの?俺と居たいの?居たくないの?
「やだよ。トキヤ泣いてんじゃん。なんで泣いてんの。」
 ちゃんと教えてよ。トキヤはどうして泣いてるの。どうして一人で抱え込むの。
「俺、トキヤを泣かせたくて待ってたわけじゃないよ。」
 泣かせたくなんてなかったのに俺がバカだからトキヤを泣かせちゃった?
「貴方はバカなんですか。」
「そりゃトキヤより頭は良くないけど、友達泣かせて放っておけるほどバカじゃないよ。」
 友達だと。言ってみて違和感。トキヤがマサや那月とは同じだと思えない。トキヤと仲良くしたいのに友達じゃしっくりこないなんておかしいよね。
「嫌いです。嫌いなのに貴方が好きです。貴方が欲しい。触れたい。貴方に私のことを認めて貰いたい。」
 俺のこと、好きだって言った。トキヤが好きだって言った。トキヤの声が震えて、床に崩れた。泣いてるってすぐにわかる。俺はトキヤを泣かせてばかりだ。困らせて泣かせてつらい思いばっかりさせてる。
「トキヤ。顔見せて」
「嫌です。」
「何でー?いいじゃん。」
 なのにトキヤの顔が見たい、なんてまた怒られちゃうかな。俺のこと好きって言ってどんな顔してるの。俺はどんなトキヤの顔だって見たいよ。後ろから覗き込んだら俺と目が合った瞬間にトキヤは眉を寄せて切なそうに唇を閉じた。マサが目の前で泣いたってきっと俺はこんなに胸が痛くならない。トキヤが泣くとつらいよ。トキヤに触れたい。トキヤに俺を見て欲しい。ああ、なんだトキヤが言ってたことってこういうこと?俺と同じなんだね。
「トキヤ。キスしたい。」
 これは思い付きとか、勢いじゃない。本当にそう思う。俺ってトキヤが好きなんだ。トキヤだけ特別なんだよ。だからキスがしたい。トキヤを感じたい。トキヤを俺のものにしちゃいたい。
 二度のキス。初めてより緊張して、少し触れただけで離れた。そうしたトキヤの顔が真っ赤で可愛くてもう一度キスをした。トキヤの涙目が綺麗で目元にもキスをする。
 俺、トキヤが好きだよ。





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