※未来捏造。
※ちょっと暗い。
※不幸までいかないけどハッピーではない。
※やっぱ暗い。







 真斗から呼び出されるのは一体何年振りか。空気が澄んで空が遠い季節に受けた電話で部屋を飛び出した。部屋着のシャツの上にロングカーデを羽織っただけではさすがに寒い。真斗は自分より他人を優先する性質がありこんな風にオレの予定も構わずに呼び出すことはまずない。そのせいで恋人からの呼び出しにもはしゃぐ気にはなれなかった。嫌な予感。自慢じゃないがオレの予感は当たる。昔から勘が良く、そこが親父にとっても嫌な子供だったに違いない。足早に真斗のマンションに向かう。会おうと思ってそう会えない距離が痛い。ルームメイトだった頃はどれだけ嫌でも毎日顔を突き合わせていた。そう思うともう少し早く素直になっていればよかったとも思う。ずっとオレは真斗を愛していたのに。合鍵で二重ロックを解除して真斗の部屋へ。玄関を開ければ真斗がすぐそこに立っていて早かったな、急がせて済まないと色のない笑顔を作った。きんと耳鳴りがして嫌な予感が強くなる。落ち着いた佇まいの真斗の部屋は何度も訪れているが今までで一番静かだ。畳のリビングの座布団に腰を下ろし向かい合ってようやく本題が切り出された。

「父上が入院している。」
 真斗は顔色も変えずに淡い声で言った。
「今年に入ってから体調が良くなかったようなのだが、年明けまでもつかわからない。」
 オレの目を見ているのに壁でも見ているように真っ直ぐに話す。
「事務所には既に話してあるのだが、年内を目処に芸能界を引退し来年度から聖川財閥を継ぐ。」
 何かに似ていると思った。そうだニュースだ。わかっている事実と決定事項のみを話す。真斗はまさにそれだった。
「その為、年明け早々に結納する。」
 ニュースを見るのは嫌いじゃない。多分それは自分に直接関わらないことがほとんどだからだ。
「共に歩むと言った人生だが、お前とはここで終わりにする。」
 自分と関わりが深いことをこうも淡々と吐かれては受け止め切れない。聖川の当主が入院なんてそれこそニュースになって良さそうだがなっていないところを見ると機密事項なんだろう。あの世界に名を轟かせる聖川が弱っているとあれば寝首をかかんとする人間は山ほどいる。もちろんうちだって聖川を潰しに掛からないとも言い切れない。
「申し訳ない。」
 そう言って真斗は畳に両手を付き額が畳に着くほど頭下げた。さっきから日本語独特の曖昧さを含んだ言葉が一切ないな。オレの意見なんて聞くつもりもない。きっと聞いたら揺らぐからなんて馬鹿な理由だろう。オレに何を話すかだってきっと何度も考えて推敲した結果だろう。無駄がなさすぎて、
「面白くない。」
 真斗は頭を下げたままぴくりとも動かない。
「…オーケー。把握したよ。今後お前はオレに構わなくていい。」
 責任感が強く、自分より他人を優先する男だ。家の人間の為を思っての選択だろう。
「話がそれだけならオレは帰らせてもらうよ。」
 オレが口出ししては真斗の決断が全て無駄になる。座ったばかりで体温も移りきっていない座布団を置いて部屋を出る。
「恩に着る。」
 最後に頭を下げたままの真斗がそう言った。
 来た道をそのまま戻る。さっきより冷え込みの強くなった夜道にロングカーデがはためく。長い足は地面をリズミカルに蹴るのに身体が重い。いつからこんな風に真斗を愛していたんだろう。頭が痛くて吐きそうなばかりで涙はちっとも出てこなかった。




110918
続編「戻りたいと願う
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