※子供時代は名前呼び希望
※子供時代捏造込み
※ゲーム・アニメネタ混在
※R15




 オレが神宮寺レンという人間に出会ったのは、まだ年齢が一桁で、神宮寺は二桁になった頃だったと思う。たった一桁分の人生でオレは何をすべき人間で何をしてはいけないかを父親の教え通りに把握していた。閉じた世界でオレの目に映るものはモノクローム。可能性が100%しかない世界でただ、人形のようにおとなしく座っていた。
 その世界の扉を初めて叩いたのは聖川と敵対する神宮寺の三男だった。同じような家庭環境で育ちながら、自由で明るくそして人を引き付ける。オレは彼を純粋に好きだと思ったし、彼に憧れた。彼が無邪気に差し出す手を取ればどこまでも行けるだろうと、そう思っていた。
 繋いだ手を振り払われたのは中学に上がった頃。オレたちはマスコットから両家を表すバロメーターになった。どちらの家がより優れているのか。その為だけに比べられ競わされる。二人で仲良くなどとできるワケもなく互いから気持ちを遠避けて、見ないようにした。つらくないように。そうして長い間、互いに互いを見ずにいたのに、まさかこんな所で寝食を共にすることになるとは思わなかった。
 学生寮で同室になった神宮寺は出会ったあの頃より輝きをなくして身体ばかりがでかくなっていた。

 平日の深夜、今日はバラエティー実習で随分と疲れた。慣れないトークをテンポよく進めなくてはならず、頭を悩ませた。疲労感に身体を沈め布団で眠る。浅い夢を行き来した頃にふと人の気配を感じて薄目を開ければ俺の上にのしかかり布団を人の布団を剥ぐ同室の幼なじみの姿があった。
「神宮寺、貴様…人の寝込みを襲うとは卑怯な…。」
 親の力の届かないこの学園に来たのだから昔ほどとはいわずも少しは互いを理解できればと思っていたが彼はオレと目を合わさない内に派手な女遊び癖を身につけオレは及ばない。また彼はオレに対してのライバル心を捨てる気はないらしく、会う度に喧嘩を売って来る。どうやら、嫌われている様だ。寝込みを襲う程に。
「おいおい。人聞きが悪いな、夜ばいって言ってくれよ。」
「…夜ばい?」
 予想外の返答と聞き慣れない単語に一瞬思考が止まる。これだからバラエティー実習でも言葉に詰まってしまったのだ。精進しなくては…、そして神宮寺は今なんと言ったのだろう。夜ばい、と言ったか。…。
「っな、貴様は何を考えてるんだ!さっさと退け!」
 脳内の辞書が目的の単語を引き当てればそれに付随して相手の艶めかしい声にかっと身体が熱くなる。くだらない冗談はやめろ。神宮寺の胸を手の平で強く押したが大気圧の掛かった男一人を突き飛ばすには及ばず、神宮寺は笑った。
「聖川の坊ちゃんがこの程度のことで声を荒げるとはね…お前、童貞だろ」
 何故そんな話になるのだ!おまえはそういうことしか考えられないのか!だから夜ばいなどと…!オレは浮かんだ滅裂な言葉の内のいずれを選んでいいのかわからずに勢いだけで声を上げる。
「うるさい!貴様には関係ないだろう!」
 そう言う間にも布団を剥ぎ取られ少し寝崩れた浴衣を慌てて引き寄せる。大体が大体だ。何故このようなくだらないことをすると言うのだ。神宮寺がわからない。嫌がらせ?そんな卑怯なことをする男ではないだろう。
「神宮寺の三男が…」
 夜ばいとはつまり、普通は女性相手にだが、つまりどういうことなのだろう。オレと神宮寺と夜ばいという単語の共通項が見つからず混乱が増す。
「男相手にこの様な…」
 女性ばかりに、と思っていたが本当は誰でもいいのだろうか。まさかその様な下劣な下心でこんなことを?
「助けを呼びたけりゃ呼べばいい。お前が呼べばすぐ来るんじゃないか?あの使用人は。」
 余裕っぽく笑う神宮寺がオレの深い色の髪を掻いて耳に掛けた。擽ったくて思わず首を竦める。いつもこのような手つきで女性に触れているのか?淡いブルーの瞳が小さく揺れているように見えて神宮寺の肩に置いたままだった手は無意識にシャツを掴んでいた。
「…神宮寺、貴様…何を企んでる?」
 この男が意味のないことなどするようには到底思えない。理解こそ及ばないが、神宮寺は誰よりも賢く誰よりも気高い。きっとこれも何か考えがあってのことなのだ。でなければどうしてその瞳はそんなに震えている。
「企む?まさか。…ただの気まぐれだ。少しばかりお前で遊んでやろうかと思ってな。」
 瞳を震わせたまま、笑う。ああ神宮寺がわからない。どうしてお前はいつもそうして自分も他人も騙そうとするのだ。昔は違っただろう。誰よりも素直で誰よりも綺麗だった。
「…お前は、変わってしまったのだな。」
 ひどく、寂しい。互いに不器用でも、いつか距離が埋められるのではないかと思っていた。そう信じたかった。けれど神宮寺はそうは思っていないのだろう。オレを憎んでいるのか。
「…。これだから童貞は嫌だね。ムードも何もあったもんじゃない。」
 神宮寺がオレに呆れたようにいかにも演技らしい声を出す。
「…神宮寺。」
 オレはもうお前とわかりあえないのか。それがひどく辛い。自分のものとは明度の違う健康的な色の指が首筋に触れて、空のような瞳が曇る。
「少し、黙れよ聖川。」
 嫌に整った顔が胸元に埋まり浴衣の合わせを割くように手の平が胸板に触れる。慌てて引き離そうと握っていたシャツを引くが鼻先に神宮寺の髪が擽って何故か本気で嫌がる気にはならなかった。
「オレはその綺麗な顔が憎い。お前は、いつもそうやってオレを見下して…、本当はおかしくて仕方ないんだろう。…神宮寺の三男が…聖川の嫡男であるお前に…いくら対峙しても、土台が違う。惨めだって、笑ってるんだろう。笑っているんだろう。」
 何を言っているのだ。浴衣は腰帯でなんとか止まっていた。オレを捕食するように神宮寺が胸に噛み付く。皮も筋肉も関係なく歯形を付ける。何の意味がある行動なのかわからないがとりあえず痛い。痛みを訴えても神宮寺はやめる気がないらしく今度は乳首に噛み付く。痛みが一際鋭く息が詰まった。
「いくらお前と張り合っても勝てない。滑稽だろ、オレが。」
 噛んだばかりの乳首を舐めてオレを見上げる神宮寺が昔の、あいつが泣いているように見えた。
「……………レン。」
 痛みを堪えるうちに少し早くなった鼓動。それに準じて息も早い。無意識に懐かしい呼び名を口にしていた。あの頃と変わらない暖かい色の髪を撫でると神宮寺は目を見開いて眉を寄せて瞳を滲ませた。
「オレが、いつ…お前を笑った?昔から、華やかで人をひきつけるお前をうらやましいとさえ思え、馬鹿に…したことなど一度もない。」
 暖かい。髪に指を漉き入れてみると神宮寺の熱が伝わった、そのまま首から背中を撫でて男らしい身体を抱きしめる。
「お前がオレを憎むのは構わん。だが、お前が神宮寺レンが、自嘲などするな。…似合わない。見て…いられない…。」
 もしかして、神宮寺もオレと同じだったのだろうか。一人でたくさんのものに反発してだれかに愛されたくて、オレのこともわからなくて、自分のこともわからない。
 大の男が大人しく抱きすくめられて小さく震える。オレはそのまま妹にでもするように額に口づけた。
 胸が濡れた、気がした。





110909
続編「わかったフリをしていたのさ
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