「翔ちゃんはお兄ちゃんなんですねぇ。」 ばかみたいにずるずると伸びた手足にはしなやかな筋肉がまとわりついている。 いつか俺は死んでしまう夢を見た。 この大きな男を置いて死んでしまう夢。 那月は俺の弟の話を聞いて楽しそうにそう言って俺の頭を撫でた。大きな手。俺と弟は別人。同じ親から同じ日に生まれた別人で俺と同じじゃない。それは俺の数年前に生まれた那月も同じ。 「きっと可愛いんでしょうねぇ。弟くん。」 俺が死んで、那月はどうするのだろうかと考えて背筋が凍えた。俺より先に生まれて、俺より後に死ぬ那月の事を思って、心臓が痛くなった。 「僕もね、可愛い弟が欲しかったです。」 俺はたぶんまだ死なないけど、もしかしたら違う世界の俺は心臓が悪くて死んじまう、そういう、憐れな人間な気がした。 「お前に弟なんかいたら、どうせ毎日毎日可愛いっつって抱きしめて、弟が気の毒だっつーの。」 俺は死なないし那月は1人だし俺たちはずっと他人。 120702 [戻る] |