ゴウゴウなる風の中、バチンと大きな音がして部屋が真っ暗になった。台風の最中の停電。オレの見ていたテレビは勿論ブツンと切れて、トキヤのデスクの明かりも消えた。 「うわあっ!暗っ!トキヤ大丈夫?どこにいる?」 「…デスクです。そう騒がないで下さい。」 トキヤの落ち着いた声が聞こえるけど何も見えなくて窓の外に稲光が見えた。 「と…隣とか大丈夫かな?」 窓ががたがた揺れて雨粒がぶつかる音がする。 「早乙女さんなら予備電力くらい用意しているでしょう。じきに戻ります。」 こんなときだってトキヤは冷静だ。また稲光が走って首を竦めたら遅れて轟音。 「そう?…ねぇ、トキヤ。」 「なんですか。」 「電気戻るまでしりとりしない?」 暗さにもだいぶ目が慣れてトキヤの方を向いて提案する。雨、すごくて止まなさそう。 「しません。」 「えーっ!なんで!暇じゃん!やろうよー!」 すぐ断られちゃってびっくりした。しりとりくらいならトキヤも付き合ってくれると思ったのに。 「せっかくなので私は先に少し休みます。」 雨と風の音の中でトキヤがそう言ってベッドに向かう影が見える。 「じゃあそっち行ってもいい?」 「ダメです。」 「寝るんでしょ?一緒に寝ようよ。」 「嫌です。」 立ち上がってトキヤのところまで行こうとしたら光と音が同時に轟いて思わずしゃがむ。 「トキヤぁ…。」 「嫌です。」 「………う…。」 どうしよう。背中がぞわぞわする。 「……。」 「…っ。」 「…音也。」 「う…。」 トキヤの声に上手く返事ができなかった。 「もしかして貴方は、暗いのが怖い、なんて言いませんよね。」 床にはいつくばったままトキヤの方に一歩近付く。 「…こ、わくない。」 小さく窓の外で雷のゴロゴロが聞こえる。 「なら構いません。お休みなさい。」 「わーっ!嘘嘘!こ、怖いって言うかさぁ…苦手なんだよ…その…なんか誰もいなくて、一人になっちゃったみたいで…。」 四つ這いのままこんなことを言うのは情けないけど、怖いんだもん。 「…今は一人ではないでしょう。」 トキヤの優しい声が聞こえて見上げたらトキヤが傍に立ってて俺の頭を優しく撫でた。 「トキヤぁ…!」 冷たく見えて優しいトキヤ。嬉しくなってそのままトキヤに抱き着いたらトキヤが尻餅を付いた。 「っ、だからと言って抱き着くなど…!」 トキヤは優しいね。トキヤ、ありがとう。嬉しい、俺嬉しいよ。 「…お前ら、何やってんだよ。」 ぱっと明かりがついた。 「あれ、翔じゃん!どうしたの?」 声の方を見たら翔が入口に立ってる。 「……!」 「いや、一応無事を確認しに来たんだけど、邪魔したみたいだな。」 翔が引き攣った笑顔を見せて部屋を出て行った。 「邪魔?ねぇトキヤ?邪魔ってなんのだろうね。」 翔ってわかりやすいのにたまにはわかんないこともあるんだなって思いながらトキヤの顔を見下ろす。 「音也、離れなさい。」 「え?なんで?」 「いいから離れなさい!そして以後、私に半径1m以内に近づかないで下さい…!」 トキヤの声と同時に稲光が走った。 120225[戻る] |