※「恋はこわがり」の続編
※R15








「もう俺…ムリだわ。」
 もはや恒例になった来栖翔の恋愛相談のコーナー(俺が相談する側)の冒頭でついにギブアップ宣言。前回の放送後!俺は果敢にも那月に挑戦し、お互いの気持ちを打ち明けあってカ・ナ・リ!いいとこまで行ったと思う!ところが那月の「お前には100年早い」(CV.野太い声)宣言で打ち切り状態!来栖翔選手!ここでギブアップです!
「とは言え、なんか今更諦めんのも癪なんだよなぁ。」
「だんだん意地になってないかい。おチビちゃん。」
 そりゃ意地にもなるっつーの!二度もぎりぎりいい雰囲気まで行ったのにダメってさぁ…。那月は柔和そうな見た目と違って結構ガンコなんだよな。自分の決めたことを曲げるってことを知らない。…だからつらいことが多いんじゃねーかなって思うけど。
「あいつ…俺がいんのに寂しいみたいだから。」
 俺が覚悟もなく那月と付き合ってると思ってんだろうか。好きなものは壊れちゃう、なんてそんなくだらない思い込みは消してやりたい。あいつはただでさえ二人分は厄介なんだ。でもそれを俺は全部受け止めるくらいの愛はあるつもりだ。

「おい、チビ。」
 いつもは教室まで迎えに来る那月が来ないから寮に一人で帰って来たら部屋にいたのは眼鏡をしていない那月…つまり砂月だった。付き合ってるからはきつく言い付けて眼鏡を外さないようにしてたから、砂月に会うのはひと月以上ぶり。
「お前、随分勝手なことしてんじゃねーの。」
「さ、砂月…。」
 那月の鋭い眼光が俺を壁に縫い付けたみたいに動きを奪う。てかなんで眼鏡外れてんだよ!
「那月を惑わせやがって…那月を守れるのは俺だけだ。チビはすっこんでろ。」
「はぁっ!?なんでそうなんだよ!お、俺は那月と…つ、きあってるし…」
「俺はお前なんか認めてねー!」
 砂月の長い腕が急に伸びて胸倉を掴む。
「どうせお前は自分の欲望のために那月を利用してるんだろ。那月は優し過ぎるからな…。お前を疑ってもいない。」
「…っ、利用って!お前がどう思ってんのかしらねーけど、那月が先に俺のことかわいいだのなんだの言って」
「かわいいって言われてほだされたのか、お前は。那月のことを好きでもないくせに。」
 砂月の声が鼓膜を震わせて胸倉を掴む手に力が入り首が締まる。苦しくて那月の手を掴むけどびくともしない。
「…んで、っお前が…決め付ける…ん、だよ…っ!」
「前は那月にどれだけ好きだと言われても嫌だの一点張り。急に手の平ひっくり返して今度はセックスがしたい、か?」
 苦しくて息が上手くできない。足をばたつかせてもリーチが違いすぎて無意味。くそ。こんなのどーすりゃいんだよ。
「おれは…ッな、つきが…!」
「そんなに那月の体が欲しいなら俺がしてやるよ。」
 唇が急に塞がれて息ができなくなる。那月と同じ、柔らかい唇が別物みたいに荒々しいキスをする。唇が破けてしまうんじゃないかってくらい吸われて噛まれた。痛いのに舌先だけは優しくて口の中を荒らしながら息を奪う。
「っは、ん…さ、つき…。」
 こんなの、したいんじゃない。砂月の肩を掴んで押し返すけどびくともしない。叩いてもびくともしない。砂月が片手でベルトを外して勝手に下着の中に手が入ってきた。ばか那月!なんでお前がいないんだよ!俺はお前しか好きじゃないのに!荒い口づけなのに那月の匂いばかりが強くて体が熱い。今は那月じゃないのに、やっぱり同じ匂いがして、胸が痛い。
「ほらな。お前は誰だっていいんだよ。俺だろうと那月だろうと、な。触ってもねーのに硬くしやがって…淫乱め。」
 なんで砂月はこんなことを言うんだ。那月が大事だから?那月を守りたいから?…那月の深層心理では砂月と同じ事を思ってるんだろうか。信じたいのに信じきれなくて、自分から離れてしまうことが怖い。
「っ、勝手にさわんなッ!…仕方ないだろ!俺は那月の声も味も匂いも好きなんだから!」
 いくら砂月だとわかってても同じ体なんだから、やっぱり反応しちまう。すげー情けなくて嫌になる。なのに砂月の手が動く度に込み上げる快感。必死に噛み殺したら目尻に涙が滲んだ。
「俺は…那月としかこんなことをするつもりはない!」
 砂月の瞳が一瞬揺れた気がした。
「…だから、やめろよ。」
 でっかい体に腕を回して抱きしめる。あぁやっぱり那月の匂いがする。同じ匂いなんだ。那月と何が違うんだろう。声も温度も色も変わらない。
「こんなことしてもお前が傷つくだけなんじゃねぇの?…俺はお前と那月を別人だとは思えねーし…お前が傷つくのは見たくない。」
「綺麗事を言うな…。お前のそういうところが那月を不安にするんだよ!」
「俺だって不安だよ!自分ばっか怖いみたいな顔すんじゃねー!」
 砂月の体を抱きしめる力を強めれば砂月の手が止まって詰まる息だけが聞こえた。
「怖いなら怖いって言い合えばいいじゃん。お前のことだってめんどくせーって思ってたけど、受け止めてやる覚悟はできてんだよ。俺は那月の弱いとこももお前も含めて、好きなんだ。」
 那月が弱い部分をたくさん抱えてて困った奴だってことくらいわかってる。けど俺はそれでも。
「那月を愛してる。」
 誰かを愛してるなんて、そんな言葉を言うとは思わなかったけど砂月にはわかって欲しい。俺は那月をこんなにも愛してる。怖がらせて不安にさせている。抱きしめた体は大きいのに繊細で弱い。
「お前も一緒に愛してやるよ。」
 別人格ったって、お前も同じじゃん。大きいのに繊細で弱くて、強がってばかりいる。もう少し俺に甘えてほしい。年下扱いなんかしてお前が頑張らなくていいんだ。
「お前バカだろ…。」
「バカでもなんでも本当にそう思ってんだから仕方ないだろ。」
 那月のことを支えられるようになりたい那月のことをもっと理解したい那月にもっと愛してるって伝えたい。欲張りな願いばかりかも知れない、それでもそう思うから。
「那月、戻ってこいよ。」
 那月に会いたい。会ってちゃんと愛してるって言おう。触れて抱きしめてたくさんキスをしよう。不安なんて一緒に食べてしまおう。
 大きな手が俺の肩を小さく掴んでそのまま重くなる。自分より大きな体をなんとか支えて顔を覗くと那月は眠っていた。「那月…?」
 呼びかけに那月が小さく身じろぐ。長い睫毛の端から雫が零れて俺は抱きしめる力を強くした。俺はお前を置いていなくならないしましてやお前より先に死んだりもしない。だから信じろよ。
 那月が目覚めるまでこのでかい体を抱きしめていよう。強く、強く。








111017
続編「まだ恋はおあずけ
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