※「恋はおあずけ」の続編
※アニメ寄り設定
※R15







「レーンー!」
「ん?どうしたんだいおチビちゃん。」
 那月の衝撃発言の翌日、俺はレンに泣きついた。
「俺もうダメだぁ!自信ねーよ!」
 あんなに頑張ったのにまさか那月にはっきりダメだと言われるとは思わなかった。那月のことを子供扱いしてたからあんま意識してなかったけど初めて自分が那月より年下なことを呪った。同い年だったらそんな言い訳しなかっただろう。
「そりゃあ困ったなぁ。まさかシノミーがそんなに真面目だとはさ。」
 昨夜の事を今度はノロケにならないようにかい摘まんで話したらレンが肩を竦めた。
「真面目っつーかバカっつーかあいつが何考えてんのかわかんねーよ…。」
 好きなら、自然と触れたりしたいって思うもんだと思ってた。けれど那月はそれが通じないみたいだ。あんなにスキンシップはするくせにそこだけ別って、のは…なんだかやっぱり避けられてるんじゃないかって気になる。…那月には俺がそんなにお子様に見えてるんだろうか。頭がぐるぐるする。
「そんなに我慢できないのなら貴方から迫ってみればいいのでは。」
 後ろから声が聞こえて振り返る。呆れ顔で腕を組んだトキヤだった。
「ばっトキヤお前何言ってんだよ!んなことするか!つか別に盛ってるとかじゃねーし!」
 つかトキヤに聞こえてたのかよ恥ずかしい!
「そうでしょうか?私は四ノ宮さんの判断は懸命だと思いますよ。第一この学園は恋愛が禁止されていますし性欲に溺れる前に勉学に励むべきでしょう。」
 ふぅとトキヤはため息を吐いて目を細める。確かにソノトーリデゴザイマス。俺は誰かと付き合うつもりなんかなかったのに気付いたら那月を好きになってた。アイドルを目指す以上、今は那月の言う通りに大人になるのを待つしかないのかも知れない。
「おいおいイッチーは真面目だねぇ。いくら恋愛禁止だろうと学生だろうと愛がなくちゃ生きていけない。それに俺達は歌を歌うってのに愛がなけりゃ歌えない、だろ?」
「愛がないと…歌が…?」
 トキヤがぽつりと繰り返す。レンの言葉はトキヤとは対照的だけど正論だと思う。でもだからってえっちしたかしてないかが愛なんだろうか?つーか俺は那月に愛されてんのか?俺は那月に触れたいとは思うしキスしたり抱き合ってるとムラムラはする。けど、それは。…わっかんねー。頭のぐるぐるが渦巻きになって溺れそう。
 今日は那月が教室に迎えに来る前に先に帰った。探してるかな。怒ってるかな。目の前にラップを貼付けたみたいに視界が鈍くて息苦しい。制服のままベッドに倒れ込んで俯せていたら足音が聞こえた。那月だ。
「翔ちゃん!先に帰ったと聞いたんですが…どうかしましたか?お腹でも痛いの?」
 那月は帰って一番に俺のベッドに駆け寄る。怒る所か心配してんのかよ…。バカだなぁ。お人よしすぎるんだ、お前は。那月がベッドの傍に屈んで俺の顔を覗き込む。俺は顔をベッドに埋めて隠したまま那月の顔を覗き見た。
「…胸が痛い。」
「大丈夫ですか。心臓の病気だったりしたらどうしよう…翔ちゃん、お医者さん呼びましょうか?」
 ばか。心臓に病気なんかあるかよ。那月のジャケットの袖を掴んで今にも医者に電話しそうなのを引き留める。目を丸くしてまた俺の名前を呼ぶ。甘い声。好きだ。いつの間にかこんなにも好きだ。
「全部、那月のせいだ。」
 ミルクティーに染まった髪が揺れて動きが止まる。
「…お前が好きなんだ。どうしていいか、わかんないくらい。」
 那月が一度瞬きをして少し困ったようにわらってから長い腕が伸びて俺を抱きしめる。大きな体が暖かい。やっぱり好きだ。俺はおかしくなっちまった。いつの間にか。この甘さに狂ってる。
「僕も翔ちゃんが大好きです。このままぎゅーってして離したくない…。」
「本当に?」
「勿論ですよぉ。」
「だって、その…俺、男だし。」
「そうですね。」
「お前が小さくてか…かわいいって思うのも今のうちだけかも知れないし。」
「…翔ちゃん。」
「年下だから、とか言ってるけど本当は…俺としたくないだけじゃないかって、考えちまって…」
 こんなこと言いたくなかったのに、ダメだ。不安がはじける。女みたいにぐちぐち悩んで俺らしくもない。悔しい。掴んだままの袖がグシャグシャになってる。
「翔ちゃんは僕が信じられませんか?」
「…んなワケじゃねーけど、正直、怖い。」
 この那月がもし俺をいらないと言ったら、俺はどうなるだろう。好きな奴に、信じてる奴に見放されたらと思ったら怖い。今まで怖いことなんてなかったのに。
「僕は翔ちゃんを大切にしたいんです。だれよりもなによりも。」
 背中から抱きしめられたまま響く那月の声が少し低くて直接心臓が震える。
「僕が、好きなものはみんな壊れてしまうから…翔ちゃんだけは失いたくないんです。なんて、恥ずかしくて…言いたくなかったんだけど…本当の僕は臆病だから。」
 少し掠れた声が耳元で響いてドキドキしてる。後ろを向いたら那月が恥ずかしそうに笑ってた。なんだ。お前も怖かっただけじゃん。二人して怖がってばっかで情けないよな。そう思ったら少し笑えて、那月の唇が頬に触れる。体を那月の方に向けて首に腕を回す。ふわりと甘い香りがして胸がちくちく。眼鏡に邪魔されながらも顔を近付けてキスをする。柔らかい唇が好きだ。また触れたくなったら那月から唇を塞がれる。鼻から息をするのも慣れたし唇を食まれたら食み返すのもできるようになった。顔から首から熱が下りて指先から爪先まで熱くなる。しっかりした背中が少し悔しいけどそこも全部好きだ。俺はこんなに那月が好きなんだ。だから怖がらなくていいし、もっと触れて安心して欲しい。那月の首筋を撫でてそのまま制服のネクタイを引いて解いてやる。ふとトキヤの俺から迫ってみればっていうアドバイスが頭を過ぎってそれも正しかったんだなと思った。シャツのボタンを片手で外すのが難しいことを知って苦戦しながらも那月の唇を舐めて舌先を触れ合わせた。
「翔ちゃん…。」
「ん、那月…ふ。」
 シャツのボタンをようやく一つ外した所で唇が離れて額が合わさる。濡れた唇を舐める那月の仕種が色っぽくて体が熱くなる。そのままグリーンの瞳を見つめてボタン二つ目に手をかける。
「だから、少し待って欲しいんです。」
 那月が困った様に笑って軽いキスをして体を起こす。え?…えぇぇぇ!?ちょっと!?えぇぇ!!?いま完全にラブラブな流れだったよな!?俺そのつもりだったし!えっえぇ!?なんでなんでなんでだよっ!ちょっと那月お前なんでだよ!
「えっいや、だってその…!」
「ふふっ。翔ちゃんはかわいいなぁ。ボタン、外すの苦手なんですねぇ。」
 そう言いながら那月が片手で俺のネクタイを抜き取りボタンを三つ続けて開けてしまった。
「でぇーっ!なっなにしてんだバカっ!」
「照れ屋な翔ちゃんもかわいいですけど、このくらいで恥ずかしいんだったらまだセックスは早いですねぇ。」
「セッ…!」
 とても俺の口からは言えないような言葉が飛び出して顔を隠してしまいたいくらい恥ずかしい。
「恥ずかしがるのも嫌いじゃないですけど、僕はおねだりしてもらえる方が好きなんですよぉ。だからまだおあずけです。」
 にこにこ笑う那月になにやら黒いものを感じて背筋だけが一気に冷える。こいつマジでなに考えてんのかわかんねぇ…!!
 そんな俺の混乱を余所に那月はさっさと自分のスペースに戻って鼻歌を歌いながら制服を着替え始めた。少し腹が立ったからそのまま後ろから襲ってやろうかとも思ったけど俺にそんなスキルはなく。自分も大人しく部屋着に着替えた。






111014
続編「恋はよくばり
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