※「わからないフリをしていたんだ」の続編
※子供時代は名前呼び希望
※子供時代捏造込み
※ゲーム・アニメネタ混在
※R15




 俺が聖川真斗と出会ったのなんかのでかい祝い事の席だった。大人たちが大勢集まり嘘っぽい言葉を並べ笑い合う。唯一俺が楽しみだったのは音楽だった。オーケストラの演奏を間近で聴くこれ以上ない催し。けれどそれ以外は退屈なもので、挨拶に連れ回される兄貴達とは違い俺は親父にとって隠したい存在らしく知らない顔をされる。ならわざわざこんなところに連れて来なきゃいいのに。退屈だった。けれど同じように退屈そうにしている子供がいた。それが聖川だった。初めはそういう境遇の似た仲間意識と子供特有の残酷な友情だったと思う。次第に成長し互いが比べられるようになったとき、俺は改めて聖川真斗という人間を見た。俺の劣等感の塊。似ているのに根本が違う。憎悪さえ抱く。どうしてこいつと俺は違うのだろう。俺はこいつに並べないそのことが酷く辛くて。俺は繋いでいた手を払った。
 その聖川とまさか同じ部屋に住むことになるとは思わなかった。子供の頃から色気のある子供だったが十五になった聖川は凜とした魅力のある男になっていた。男女問わずみとれてしまうだろう美しさだ。俺は聖川と離れていた間、嘘ばかりが上手くなっている。聖川は嘘が下手でこいつは俺とは違い汚れてもいない。大切に家に守られてきたこいつとは違い俺はいつしかの大人たちのようになってしまった。博愛を掲げてたくさんの女性の相手をしていたけれど愛が欲しかったのはこの俺で、どの女性も俺に愛をくれることはなかった。満たされなかった。
 例えば、この男を手篭めにしてしまえば少しはこの劣等感は薄れるのだろうか。とか、白い肌が綺麗だ。とか、今なら寝首をかけるかも知れない。とか、沢山理由を付けて眠っている聖川の布団に忍び込んだ。どうせ俺は軟派なイメージでできているしどうせ聖川に殴られて未遂に終わるだろうしどうせあの使用人に邪魔されたりして大事にはならない。
 けれど聖川はどれも裏切って俺を許そうとした。情けない弱音ばかりを吐いた俺を抱きしめて額にキスをした。俺は苦しい胸が解かれたみたいに急に泣いてしまって、それはもう数年ぶり。せっかく聖川の胸に顔を埋めて隠してたって言うのに生白い腕が俺の首を持ち上げて唇の位置を確かめるようにしてから不器用に唇を重ねた。
「ひじ…りかわ……キス…下手…ははっ」
 思わず笑ってしまった。真剣なのが余計に。涙で濡れてるくせに目は笑って潰れた。
「は………初めて……だから仕方ないだろう!お前は慣れているだろうが、文句を言われる筋合いはない。」
 ただの童貞かと思えばファーストキスもまだだったのか。本当にこいつは真っすぐで綺麗で汚れてない。自分の汚さが際立ってしまうほどに白い。
「…だがしたい、…と思ったんだ。お前に触れてみたいと思ったからだ。」
 聖川の瞳は深い色をしている。俺の浅いばかりの色とは違って綺麗で真実だけを映している。俺に触れる手が震えている、けれど離れない。離さない。一方的に俺から触れて、痛みを与えて、けれど聖川は俺を許した。暖かい。
 憎しみは例えるならそう愛しさと等しい質量を抱えている。
 嘘ばかりが上手い俺は一体何を隠したかったんだ。何をわかった気になっていたんだ。俺は何の感情で聖川、と呼ぶのか。あいつはレン、と呼んだのか。聖川は俺を今までどんな風に見ていたのだろう。どんな風に思っていたのだろう。この学園で再会した聖川は幼い頃の弱い子供とは違う、自分を変えようと、変わろうとしていた。それが俺は怖かった。自分にはなにもないとわかっていたから。




111012
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