※イットキヤです
※アニメ・ゲーム混在








「寂しいなら寂しいって言えばいいのに。」
 そんな風に彼が知った様な口を聞いて私を抱きしめたのは昨日だった。
ゲームみたいに救世主が現れて救われる現実などここにはなくて、虚像のアイドルが私の身に重くのしかかっていた。眠っても起きても逃げられない、思うように生きられない現実だけがあってどうしようもなく、息が遠い。彼にはばれないように、と壁を向いていたのだが眠っていた筈の彼はあっさりと私の涙を見つけて言ったのだ。
 こともあろうか私は彼に抱きしめられたまま眠ってしまい、今朝はしつこく理由や経緯を聞かれるだろうと思った。だが彼は何も聞かず何も触れず、朝日の中でおはようと笑った。
「おはよう、ございます。」
「珍しいよね。トキヤがこんな時間まで寝てるの。」
 平日はおはやっほーニュースの出演の為に早く起きる癖がついている。休日だからと言って寝坊をしたことはなかったが、時刻は昼過ぎ。ウキウキウォッチングの増刊号も終わり曜日を無視したサスペンス劇場がテレビ画面に映し出されていた。
「まぁ、たまにはいいんじゃない。そうだ。今日予定ある?ないなら一緒に映画でも見に行こうよ。」
「…結構です。それより音也、あなたは課題の再提出がまだでしょう。そんな余裕があるとはとても思えませんが。」
 洗面台の鏡の前に立ち私は涙の痕が残っていないことに安堵して、また彼の態度がいつもと変わりないことに安堵した。
「うわっ!忘れてた!どうしようトキヤ!あれ月曜日までなんだよ!」
「まだ半日はあるじゃないですか。…そう安易にライバルに頼るものではないと思いますよ。私があなたを蹴落とす為に汚い手を使うかもしれない。」
「トキヤはライバルだけど俺の大事な人だから、そんなことしないよ。」
 彼が性格をそのまま染めたような明るい髪を揺らして笑った。ああ、抱きしめられた感覚が蘇って、顔が熱い。
「…調子がいいことを言っても私は手伝いません。あなたの為にも。」
 変わらない態度で変わらない会話をしている。現実だって何も変わらないのに、体温だけ少し変わった気がした。




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