1


昔好きな人がいたんだ。
今から7年くらい前だろうか、あれは私が高校生の頃だった。
その子はきれいな黒髪で前髪が特徴的だった。
私とは年齢も違うし、その子が通っていた学校と私が通っていた高校は真反対だったからすれ違うときに見かけるくらいだった。
会釈すればニヒルな笑顔で「おはようございます」なんて言うのだから、この子は学校でモテるんだろうななんて考えていた。
そんな年下の子に恋をするとは思っていなかった。

いつの間に、この子は身長が伸びていて私も大学に進学した。

たしか名前は傑くんだっけ、私が大学に上がる少し前に名前知ったのだ。
ご近所さんなのに変だね。
傑くんは寮がある学校に行ったのかそれからめっきり顔を合わせなくなったな。

2


それから2年がたって私は大学に通い始めて、サークルというものに入ってはみた。
だが、俗にいう飲みサーと言うやつだったみたいであぁ選ぶの間違えたなぁと思っていたら、いつの間にか酔わされてサークルの先輩とベットの上にいた。
一人じゃなくて、大人数に囲まれた私は何もできなかった。

最低な気分だった。

天井を見つめて、早くこの時間が過ぎないかと。
早くここから開放されないかと願い続けた。

ぼーとしている。ただ呼吸をすることだけ忘れないように、汚い男との口づけも行為もいつまですればいいのだろう。

突然だった。
周りの男が肉塊となる。グチャッと嫌な音を立てて潰れていく。
目の前にはまるでホラー映画でしか見たことないさ、そんな化物が取り囲んでいて、男をむしゃむしゃと食べたり甚振ったりしていた。
化物は私に興味がないみたいだったが、恐怖に包まれた私はただその場で頭を抱えてガタガタと震えながらベットへうずくまることしかできなかった。

グチャ

グチャ

嫌な音とケタケタ笑う声だけが空間に響いていた。

3


突然爆音が鳴り響いた。
顔を上げると隣の壁が大開放ビフォーアフターされており、跡形もなく破壊されていた。

土煙の奥から足音が聞こえる。
怖くて耳をふさぎながら破壊されてた方から目は離せなかった。

二人の青年がいた。
その片方は白い髪とサングラスをかけていて、それでもきれいな顔ということがわかる。
もう一人は。
もう一人は傑くんだった。

傑くんは私の方を見ると驚いた顔をして、そして私のその惨状に顔を強張らせて駆け寄ってきた。

「名前さん!名前さん!」

そういって抱きかかえてくれる傑くん。
その体温に少し安心したのか、返事をしなきゃと思うものの涙がポロポロと出てきて何も話せないでいた。

「流石にこれは酷いわ」

なんて白髪の子が言う。
傑くんは悲しそうで今にも泣きそうな顔で私を見るものだから、あぁこの子は優しくてかわいいなぁと思ってしまった。
こんな状況なのにね。

そして意識が闇に引きずり込まれていった。


4


「名前さんは気にしないで、今は安静にしてください」

そう傑くんは私に声をかけてくれる。
ちょっとブスくれた顔をしているが傑くんに付き添ってくれる白髪の子ーー悟くんもいい子で気遣ってくれているのが伝わってきた。

私が入ったサークルは飲みサーではなく、新入生を狙った強姦のためのサークルだったらしい。
連れていかれたあのホテルはいつものの犯行現場みたいで、どうやら怨念?みたいのが集まっていたようだ。
あの化物は呪霊というらしく、五条くんたちはそれを祓うひと呪術師というらしい。

いつの間にかそんなになったの?と聞くと高校のときに実はスカウトされていたんだと。

そしてあの場所には、前に強姦されてきた女性達の怨念が集まってそれが呪霊となっていたらしい。
前々から祓う予定だったらしいがそれが偶然にもあの日だったようだ。

私の体は暴行されたことで多少の打撲、骨折をしていたみたい。緊急避妊薬が効いたみたいでそっちも大丈夫そうだ。
ただ、心の方はまだ回復しない。
しばらくは入院みたいだ。

あれから1ヶ月。大学の方は休学した。

傑くんと悟くんも、頻繁にお見舞いに来てくれる。
もう少ししたら忙しくなるらしいから来られないんだって。私になんて構わなくていいのに。

空が青く蒼く輝く。

「まるで悟くんの瞳みたいだね」

っていうと照れたように笑うんだ。
悟くんも素直になればいいのにな、なんて。

5


それからさらに一ヶ月立った。

私は退院となった。大学の方は一年遅れで復学の予定だ。
時間はいっぱいあるな。
私はいつの間にか男性が怖くなっていた。
傑くんと悟くん以外とはまともに喋れなくなっていた。それは家族もだった。
なので、独り暮らしを始めた。
趣味の品を集めて、好きな家具を集めて。

悟くんに独り暮らししようかなって相談したらいつの間にか物件はきまってた。すごくびっくりしたけどいつもの様子からお金持ちな感じはしていたので、納得した。
申し訳なかったけどね。
断ろうもんなら、拗ねて話してくれないので受け入れるしかなかった。
私が喋れる男性は二人しかいないので大切にしたい。

傑くんにこの話をしたら、どこから買ってきたのか珈琲道具と紅茶道具を一式。
さらに美味しいと聞く豆と茶葉までくれるものだから嬉しくてたまらなかった。
傑くんからもらったんだ、大切に使おう。
私のあの頃の恋の炎はまだ密かに心の奥で燃えていた。

6


それからというもの。
彼らは時々私の家に遊びに来る。
クラスメイトの女の子がなんとかだとか、強くなっただとか。
少し悲しいけど、傑くんと悟くんは一緒には来なくなってしまった。

そして私の誕生日には二人とも指輪をくれた。
その指輪はチェーンに通して、ネックレスみたいに首にかけている。

そして傑くんの目がだんだん虚ろになっていた。
できるだけ、話は聞きたいけど抱えている何かを話してはくれない。
私にできることはただ聞くことだけ。
そして傑くんが眠たいといえば時折膝枕をしてあげることだけだった。

何回もあって、何回もお茶を一緒に飲んで。
彼はどう見ても普通の状態ではなかった。


7


ピンポーン

玄関のチャイムがなる。

「はーい」

と返事をして玄関に駆け寄る。
扉を開けると、疲れた顔の傑くんが立っていた。

「人を殺しました。私は呪術師だけの世界を作ります。」

そんなことをいきなり言うものだから、私の体は固まってしまった。
喉がヒュッと鳴る。
彼の手は私の首にかかっていた。

傑くんの手がぐっと首に食い込んでくる。
力の差は圧倒的で、私は何も抵抗できなかった。
喉からカヒュー、カヒューと掠れた呼吸音がする。
私の目はいつの間にか涙がこぼれていて。

30秒ほどたっただろうか。

いきなり彼の手が外れた。
わたしは膝から崩れ落ちて、立つことができなくなっていた。
自分の手で首の感触を確かめる。
たしかに生きていた。

「でも、それでもあなたは、殺せない。殺せないんだ…」

泣くような声が上から聞こえる。
少し時間が立って彼は立ち去っていった。

傑くんがいたその地面は少しだけ、濡れていた。

8


ぼーと、天井をみつめ、ベットに横たわる。

傑くんは呪術界では裏切り者だって、指名手配みたいなものになってしまったって悟くんが教えてくれた。
そんな悟くんも酷い顔をしていたけど。

少しだけ話をして、彼は帰って行ってしまった。

あれから私は悟くんにも、そして傑くんにもあっていない。
ただ惰性で大学に通って。就職して。
気づいたら今になっていた。

そういえばあのネックレスどこに行ったのだろう。
二人からもらった指輪をつけていたのだがいつの間にかなくしていたみたいだ。

起きて、歯を磨いて、着替えて化粧して。
いつもどおりの平日出勤。

満員電車に揺られたらいつの間に会社でそんな日常だ。


「あー仕事終わった」

そんな言葉が口からこぼれ出る。
そうだな、今日は頑張った。
たまにはご褒美で高いお店行っても許されるだろうと、先週予約したイタリアンのお店へと向かう。


9


鼻歌を歌いながら店に入る。
店員さんに案内され、席についた。
さすが高級店。空から見える景色はとてもきれいだ。
私は所詮庶民なので周りが気になってしまってキョロキョロ挙動不審だ。

隣の席。
白髪の黒い包帯で目隠しをした男性となんだか目があった気がした。
どこかで見たことがある気がしたが、ご飯が運ばれてきたので目をそらした。

そんなことより食事のほうが大切だ。
せっかく奮発したのだから。


全部の料理を食べ終わり一息ついていると店員さんが珈琲を運んできた。

「あちらのお客様からです」

リアルのでそんなセリフ初めて聞いたよ。
店員さんの目線の先を見ると白髪の包帯さんだった。
やっぱり見たことがある。

「それと、これを」

そう言って手渡された1枚の紙。
中を見てみると

久しぶりだな
元気にしていたか。忘れ物を預かっている、よかったら今日このあと〇〇へ

と書かれていた。
間違いない、悟くんの字だった。

珈琲、私好きだったので覚えてくれていたんだ。
少し嬉しくて、笑みがこぼれた。

10


それから書かれていたお店に向かう。
暫く待つと悟くんがきた。

「久しぶり」

その声に少しだけ安心して涙が出そうになった。

あれから悟くんは先生になったそうだ。
そして傑くんはまだ見つかっていない。
ただ、呪詛師となって生きてはいるらしい。

忘れ物として渡されたのはいつかなくした二つの指輪だった。
どこで見つけたのと聞くと、知らねぇ傑から預かっていたと悟くんは言った。

悟くんは下戸みたいで、ノンアルカクテルしか飲んでない。
私もあれからというもののノンアルか弱めのお酒しか飲めなくなった。

少し私の酔が回ってきたぐらい。

「傑のこと好きだっただろ」

そんな言葉をかけられ、ドキッと心臓が鳴る。

「なんで」
「みりゃわかる。」

静かな音楽がながれて、他のお客の声がざわざわと響く。
二人は何も喋らなかった。
私は、何も言い出せなかった。

「なぁ、俺じゃだめだったのか」

そう言う彼の方を見ればいつの間にか包帯ではなくサングラスに変わっていて。
そういえばこの店に来たときには変わってたなんて現実逃避をする。

俺じゃだめだったたのか。
わかんない。
そんなこと、考えもしなかった。

あの時は確かに傑くんのことが好きだった。
それ以外はなかった。悟くんはいい子で、傑くんと友達で、私の友人。
それだけだった。

「…今はどうなんだ」

今は。今。
あのとき、首を絞められてその時からわからなくなった。
時間もたち、たしかに名前の中では過去の恋に切り替わっていた。

「今は、なにもないかな」

そう答えると

「今からでも遅くないだろう?」

と返してくる。
悟くんの方を見ると、空みたいにきれいな瞳が私を見ていた。

人の心なんて移ろい変わるもの。
次に向かってもいいのかななんておもったのです。

これから先は新しい恋のお話。
いつかみんな幸せに暮らせることを私は願います。
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