「私があなたに協力するだなんて、そんなこと、あるわけがないでしょう」
「被験者イオンは私の計画に賛同していた。であればお前は、彼の遺志を尊重すべきではないのか」
「あなた本当に馬鹿ね。知らないわよそんなこと」
イオンがレプリカ計画に賛同していたことは知っているが、しかし彼は私がいれば世界はどうでも良いとも言ってくれていた。私とイオン、二人きりで創られた小さな世界。私もそれで構わないと心底思っている。
「イオンは預言を憎んでいました。私も、イオンを殺した預言を憎んでいます。ですから簡単な話です、世界を私たちが思うがままに作り替えてしまえば良い」
今の私になら、それが出来るから。
イオンの魂は、霧散してしまう前に私の姫鶴一文字が吸収した。彼と私はこれで本当に一心同体となったのだ。私と彼が強く心を通わせれば、彼の魂を具現化することなど易い。けれど今はまだ、そのときではないから。私は一人、彼の魂を抱えて覇道を上り詰める。
「レプリカ? 馬鹿じゃないですか、紛い物に用はありません」
一期一会を大切にしたい、遠い昔の私の渇望は、紅鶸と思念体レベルで融合したことにより別のものへと変わっていた。愛した人と生まれ変わっても巡り会いたい。全ての人がそうあれるよう願い、祈り、頭を垂れる。それすなわち――女神の抱擁、輪廻転生。
「私が神になります」
このオールドラントを縛る預言という座を破壊して、私が渇望を流出させてしまえばいい。覇道となった私になら、イオンと共に在る私になら、それが出来る。
「ですから、せいぜい足掻いてください。私の理の礎になれば良い」
「……愚かなことを」
ブリュンヒルデはあなたです。いつしか対峙した赤騎士に掛けられていた言葉も、今は遥か遠い記憶の海に溺れている。