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「嘘、でしょう……複製品、なんて……それでは、あなたは……」
「用済みなんだよ、僕は」
 イオンは悲しそうな顔をして笑っていた。
「アリエッタがいて、名前がいて。僕は確かに幸せだった。だから名前はどうか僕のことなんか忘れて。普通の人生を、歩んで欲しいんだ」
「うそ、です……あなたの死が預言に詠まれて、それに従い本当に命を落とすだなんて、馬鹿げています、そんな未来なら私はいりません、イオン、イオン、私はあなたをこれからもずっと」
「……駄目なんだよ。もう、何もかも手遅れだ」




「初めましてに、なりますね。あなたが名前……ですか?」
「……はい。そう、です」
 憎くて仕方がない。彼だってレプリカとして生まれてきたことは不本意だろうに、それでも私は誰かを恨まずにはいられなかった。イオンは昨日付けでアリエッタを導師守護役から解任し、昨晩ただひたすら泣き続けていたアリエッタに私は声をかけることも慰めることも出来なかった。彼女がイオンを想っていたのは知っている。私だって彼に特別な想いを抱いていた一人だ。側にいるからこそ彼女の気持ちはいやというほど共感できた。イオンが悪いわけではない、イオンはアリエッタを想ってその選択をした。ならば根源はレプリカの存在であり、レプリカを生み出さなくてはならなくなった状況であり、全ての元を辿れば預言に行き着く。預言に縛られたこんな世界に、イオンは殺されたのだ。未来が分かるだなんて馬鹿馬鹿しい、未来は自分の手で切り開いていくものなのに。
「用が無いのなら私は行きますよ。時間が惜しいのです、分かるでしょう?」
「……ええ、そうですね。急ぎの用ではありませんから。どうか、被験者イオンを最期まで――」
「あなたからそんな言葉は聞きたくない」
 イオン……導師イオン様はひどく傷付いたような顔をして、しかし無理に笑顔を作って、私を見送った。そう、あなたは私やアリエッタや、イオンの幸せを踏みにじって今そこに立っている。同情なんていらない、私を恨んでも構わない。だから私もあなたを憎む、そうすることでしか自我を保っていられる気がしなかった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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