今吉に説教されるのifストーリー



「なぁ」

あまりにも低く威圧的な声に、ビクン!と心臓が跳ねる。

「なんや自分、治安ええからて深夜もそうや思とるんか。お気楽な頭やな」
「ううっ」
「残念ながら近所のコンビニで強盗は起こるし殺人も強姦も普通にザラやねん分かっとんか?」
「……でもっ!」
「……でも、なんや」

先程とは打って代わって、あまりにも平淡な声で問われ、一瞬言葉が詰まってしまう。しかし、この重すぎる沈黙にも耐えきれず、なまえはなんとか言いたいことを口にする。

「もっと、綺麗な人いっぱいいます。私にそんなことしたい人なんて、いないと思うん、ですけど……」
「強姦なんて暗がりでするもんや。そんな奴らが顔見てるんか」

何も間違っていない反論に今度こそ口をつぐむしかなかった。
穏和な環境に育まれ、犯罪といった物騒な経験などしたことがない分、実感が全く湧かない。自分に起こるはずがないという油断がなまえにはあった。彼女にとっては遠い世界の話だ。警戒の仕方を知らない。今吉の言いたいことも分かるが、大袈裟すぎるとどこかで思ってしまっている。そしてそれは、他人の言動や表情で心を読む今吉にも当然伝わっていた。
なまえの根底にある、恐怖のなさや余裕を。

「あー、ほんっま腹立つわぁ」

ぼそっと聞こえないぐらいの声量で、忌々しげに吐き捨てる。

「え?」

声とは裏腹ににやにやと笑う今吉は、正座したままのなまえを思いっきり突き飛ばした。突拍子のない今吉の行動に姿勢を崩し、なまえはベッドに倒れ込む。しかも反応も遅れたため軽くベッドに頭を打ち付ける始末だ。

「い、たっ!」

打った部分を手で押さえながら今吉を睨む。しかし、今吉はそんななまえを意にも介さず、いつのまにかベッドに乗り上がっていた。そして体を起こそうとするなまえの肩を掴み、無理矢理押さえつける。

「大人しくしときや」

続けざまに脚を掴み、股を軽く開かせ、そこに膝を入り込ませる。そのまま今吉に跨がられ、なまえは思わず目を見開いて彼を見た。何をされているのかわからない。何を考えているのかわからない。すくんだように動かなくなったなまえに構わず、今吉は彼女の腕を一纏めにして縫い付ける。

「やっ、先輩! 冗談はやめてください!!」

流石にまずいと悟り、全力で抵抗するが、バスケ経験者であるが故に鍛え上げられた力で押さえつけられ、腕が全く動かない。否が応にも感じる彼の手の感触やその力に、絶望的なまでの男と女の差を、決して逃げられないことを体に刻み付けられる。何度力を入れても解けない戒めに頭の中は混乱していた。
衣擦れの音、ベッドが軋む音。
暫くじたばたと暴れていたが、疲労によって抵抗は止み、それら物音は全て消えていく。沈黙に包まれた室内で聞こえるものはなまえの吐息のみだった。

「ん、」

ぷっくりとしたなまえの唇を、今吉は焦れったくなぞりあげる。

「怖いか?」

咄嗟に頷きかけたが、そんなことはない、となまえは首を振る。今起こっていることはあくまでも今吉の冗談だ。自分に言い聞かせ、爆発しそうなほど拍動を繰り返す心臓を宥める。
目の前にいるのは敬愛すべき先輩なのだ。

「先輩は、怖くない、です」

そうだ、怖い訳がない。なまえはいつものように今吉に笑いかける。
すると、今吉は一瞬だけだが目を丸くし、ぽかんとなまえを見下ろした。子供のようにあどけない表情は初めて見るもので、なまえもついまじまじと見つめてしまう。そして何とも言えない顔をしながらなまえから目を逸らし、一つ溜め息を吐いた。

「……誰がそんなこと言え言うたんや、あほ」
「え?」

聞き返したときには胡散臭い笑みを貼り付けた、なまえのよく知る今吉に戻ってしまっていた。

「もうええわ。自分いっぺん経験せな理解できへんかったな」
「ひぁっ!」
「怖い怖い言うて泣きじゃくるまでいじめたるわ」

今吉の片手はなまえの首筋をねっとりと這い、鎖骨を擽り、肩を撫でた。彼の手が触れるたびにその部分から痺れにも似た何かが広がっていく。生理的な涙が目の中に溜まり、びくびくと震えるなまえの姿に、今吉は笑みを深くした。



「お仕置きや、みょうじ」

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