「真さん、これ」

0時丁度に花宮が手渡されたものは、カカオ78%のチョコだった。きょとん、として、手渡してきた女を見下ろす。彼女も彼女で不思議そうに花宮を見上げていた。彼の呆けた表情に、なまえは首を傾げる。
コンビニ等で市販されてるチョコの中では最もカカオの純度が高いそれ。花宮もバイトの休憩中に口にしている、が。
なまえはなぜこのタイミングで手渡してきたのか。
そこで、携帯がぶるりと震えた。一旦は無視。しかしまた震える。着信なのかはたまたラインかメールか、それらが自分の携帯に襲いかかり非常に煩わしい。

「ったく、」

携帯を取り出し、ホーム画面を見たところで合点がいった。阿呆ほどに喧しい連中から送られてきた既読待ちのラインはスルー。「ああ」と呟き、なまえに再び視線を移した。

「誕生日か」
「そうですよー!間違ったのかと思って焦りました」
「今日客多かったから忘れてたんだよ」

パッケージを破り、チョコを取り出す。何の変哲もないチョコだ。
バイトで疲れていたこともあり、焦げ茶色の塊をあっさりと口の中に放り込むと、脳まで突き刺すような苦味が口いっぱいに広がった。舌の味蕾を覆い尽くしていずれ麻痺するような。甘みを探しても見つからない。本来ならチョコは甘いのに、それはただ。濃くて、苦くて。食べた者の理想と期待を裏切る舌に纏わりつく苦み。それが自分でも気に入っている、はずなのに。

「誕生日おめでとうございます、真さん」

雪をも溶かすような暖かな笑み。それをまざまざ見せつけられて。自分を想って微笑む彼女を嘲笑うことも無視することもせず、ただ花宮は時が止まったかのように見つめていた。

「ああ」

苦々しく噛み砕かれたチョコが、少しだけ甘く感じたのは、きっと気のせいだ。

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