「あー、最近珍しく盛ってたのはそういう理由か」

月一の腹の痛みに苦しんでいる時に、随分と不躾な発言だ。重石が乗っかかるような、腹の内側を釘で引っかかれるかのような鈍痛に苛まされ、生理的な涙がじわりと滲む。体調は頗る良くない。ベッドに腰掛けて自分を見下ろす今吉をギロリと睨むが、その眼光もどこか弱々しい。そんななまえを目にしながらも、彼はどこ吹く風と言ったように、飄々とした笑みを崩さなかった。

「お腹痛むん?」
「はっう、」
「大丈夫か?」
「……痛い、に、決まってるじゃないですか……」
「ほんまや、めっちゃ痛そう」

返事をしようとした時に襲い来る、ぎゅうと下腹部を締め付けるような痛み。不意打ちでもあり、それ以上にあまりの痛さに声が掠れた。発声するにも一苦労だ。ここ数日貧血気味でもあるため色褪せた唇を、節くれ立った指先が一撫で。今吉の指が乾き、かさついた薄い皮膚を弄ぶ。それから首筋を辿り、胸の膨らみに触れた。

「や、ですよぉ」
「……女の体って不思議やなぁ」

溜息をつくかのようにそう呟くと、何を思ったのか今吉はなまえのお腹をこれ以上なく優しく撫で始めた。全身がだるい上に、腹から腰にかけて広がる痛みにより力が入らないがために、されるがままになっている。痛みのせいもあり、大きな呼吸の中上下する腹部。興味深そうに、感触を確かめるかのように手を這わす、彼の意図は分からない。

「今日、自分早退したやん? せやから気ぃ抜いてしもて」
「?」
「調べてん、生理のメカニズム」
「は?」

薄く目を開いたかと思うと 、体重だけはかけないように慎重になまえの体に覆い被さり、するすると手を滑らせ、下腹部に指先を添わせる。ぴくり、となまえが体を震わせるが、気にした様子もなくそこから視線を外さない。仄暗い輝きが灯る瞳の奥には「女の体」に対する深い好奇心しかなかった。

「排卵期に受精が行われず、子宮内膜の脱落が起きると……。んー、この辺か?」

適当な仕草でぽんぽんと下腹部を撫でられ、ときは思わずその手を掴んだ。今吉が触れた部分がじんわりと熱を持つ。鈍い痛みがまるでそこにばかり集まっていくような感覚に身震いした。

「やっ、」
「で、この子宮内膜から産生される生理活性物質プロスタグランジンE2の平滑筋収縮作用によって子宮の収縮が促進され、」
「せんぱい、やめてくださ、」

もっと時間をかけるべきことはあるだろうと突っ込みたくなるような内容を、楽しげに諳んじながら、なまえの足の付け根へとその手を下ろしていく。熱を持つ中心に触れると、否が応にも体が反応してしまう。ぐっと押され、思わず声が漏れた。条件反射なのか、ぴり、と腰の奥が甘く痺れる、疼く。

「あ、」
「その収縮により子宮及び膣内より経血の排出が行われる ――この一連の過程が月経である 」

下着の上から何度も往復して撫で上げると、なまえの口から荒く吐息が零れ落ちた。潤んだ瞳、上気した頬。痛みか、それとも別のものによるものなのか切なげな表情をするなまえの耳元に顔を寄せ、「あかん顔しとるよ」とだけ囁いた。今吉の手を一瞬強張ったようにぎゅっと掴むなまえを見やり、一つ苦笑をして、動きを止めた。

「どや、勉強になったやろ」

先ほどまでの雰囲気はすっかりと消え失せ、にこにこと笑う姿に少しばかりほっとしながら、今吉の腕をぼすんと殴った。「ちょっとは気ぃ楽になったやろ」と頭を撫でられて、絆されていく自分は頭がおかしい。それはきっと、彼と「そういう関係」になった時点で分かり切っていたことだ。

「……先輩は、アホなんですか?」
「アホとちゃう、興味津々なだけや」
「理系男子キモい」
「うっさいわ」


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