新たに研究室に配属される後輩の面倒をみろと言われたのが、修士一年の最後の月だった。「今吉クンは教え方がうまいですからね」と涼しげな顔で宣ったイケメン教授を、えらいことしてくれたなとこっそり呪った。
その年は若松の面倒をみていたが、話を聞かないときがあるし喧しいし空気読まないしと実験面以外で色々と大変だった。何故あいつは煩いのかと、他の研究室の面々に問われたときには内心毒しか吐いていなかった。知るかそんなもんワシもいっつもうっさい言うとるわボケ。
「先輩」という括りは恐ろしく個人間の関わりを深め、重すぎる責任を生む。後輩が何かをやらかしたら、すなわちそれは先輩の責任なのである。理屈は解るが、リスクが大きすぎる。一人の方が何かと気楽で、それは私生活から他人と接しなければならない公的な場まで、全て同じだ。学生という身分の上で、社会というものは実利的に与えるものは恐ろしく少ないくせに、求められるものだけは大きいときがある。
後輩がつくということはそれなりに義務や責任が生じる。しかし見返りはないに等しい。部全体や試合の流れを動かすものとは訳が違う。もう後輩はつかないだろうむしろつけてくれるなと、道端の石ころのようなちっぽけな期待を寄せていたのだが、やはりそれは叶わない。
新学期が始まり、修士二年になった四月のある日。今吉翔一がめんどくさいと心から忌避していた「後輩」はやってきたのである。



自分が携わる研究テーマを決めること、それは一年間かそれから一生付き合うことになる先輩を決めることだった。今日はその先輩にご挨拶に行く日だったのだが、彼は機械に繋がったパソコンを前に、何やら操作の真っ最中だった。その操作内容はなまえには想像もつかない。いつか扱うときが来るのだろうか。難しそうな機器を操作する自分を想像して胸が高鳴ったが、その想像は機器が爆発するというネガティブな域に達してやめた。
それにしても、いつ話しかけられるのだろう。相手は集中した様子で、なまえが待っているのも気付いていないようだ。それに耳にはイヤホンが突っ込んであるため、迂闊に話しかけられない。しかし、着々と時間は過ぎていく。話しかけるか、かけまいか。なまえが延々と悩んで、話しかけようと意を決した瞬間に、図ったかのようにイヤホンを外した彼は、なまえを見て、特段焦った様子もなく薄っぺらい笑みを浮かべていた。

「ああ、すまん。気付かへんかったわ」

何気ない一言なのに、違和感を感じた。何故だろうとなまえは首を傾げる。ただ、いい人ではないのだろうとは思う。この人は笑顔の裏にいろんなものを隠している。

「えーっと……みょうじなまえさん、やっけ?」
「はいっ!」
「これから一年間よろしゅうな」

それがみょうじなまえと今吉翔一のファーストコンタクトであった。

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