ゲリラ豪雨って怖いっスね。
俺の部屋でなまえが俺のTシャツ被ってバスケ雑誌を物色してる。この状況はなんだろう。四つん這いになってお尻を突き出したなまえを横目で見る。そこから連想することなど、健全な男子高校生にとっては一つだった。なんという破廉恥な体勢か。嘆かわしい。小降りのお尻がふるりと揺れる。
ああ、本当やらしいっスわ。

「あ、帝光時代の黄瀬くんだー」

楽しそうなのは分かるが、彼女は状況を理解していない。何がまずいかって、体育で使うハーフパンツを履いているにもかかわらず、シャツが大きすぎて下に何も履いていないように見えることだ。
ノーパンとか。優等生ななまえっちが俺のシャツ着てノーパンとか。
裾から覗く脚は妙に生っちろく、太ももがむっちりしていて足首細くて、エロい。相当エロい。その光景の全てが視覚の暴力としか思えない。あらぬ妄想は今にも俺の大事な理性やその他諸々を粉々に打ち砕きそうだった。
よし、見なかったことにしよう。
窓へと視線をさっとそらす。ガラスには大粒の雨が息つく暇もなく叩きつけられ、水の膜により外が見えない。内と外の温度差が激しすぎる。

「…………」

いつになったらこの悪魔のような時間は終わるのか。仕方なく前方を見るも、そこには変わらぬ体勢のままのなまえがいる。俺は構わず声を上げた。

「なまえっち!」
「はい!」
「嫁入り前の女の子がそんな格好しちゃいけません!」
「へ?」
「こっち来て! ほら!」
「う、うん??」

ばんばんと俺の隣を叩いてこちらへ来るよう促すと、何も分かっていない表情でなまえはそのスペースに収まった。一緒に持ってきた雑誌はキセキの世代特集のもの。ははーん俺の中学時代に興味津々なんスね。にやつきを隠しながらなまえと雑誌を見ていたら、あろうことか彼女は俺のページを何もなかったかのように華麗に飛ばした。

「なんで!?」
「え、だって黄瀬くんのこと大体知ってる」
「ひどい!」
「緑間くんとやらはイケメンだね」

緑間っちより俺っスよー!と駄々をこね、なまえから雑誌を奪うと俺のページを思いっきり開いた。勢い良すぎてページが破けた。しょーがないなぁとぶつくさ呟きながら、なまえは何の期待もない表情で俺の記事をじっと見て、読んでくれた。
なまえっち優しい!
「調子に乗ってるとこは今と変わらないね」
「わあ辛辣ー」
「あ、顔ちょっと大人っぽくなってる」
「やっぱ今の方が格好いいっスよねー!」

あはーと適当にへらへら笑いながら頭を掻いていると俺を凝視するなまえと目が合った。笑い声は途中で詰まり、ぴくりと口端がひきつる。真っ直ぐな瞳に射抜かれる。不思議と彼女から目がそらせなくなり、うまく舌が回らない。道端で会った猫みたいに、なまえは俺をじっくり見分した。沈黙は長いように思えて一瞬で、それを破ったのはなまえの笑みだった。

「うん、今の方がずっと格好いい」

ふわりと、外の天候なんか忘れさせてくれるぐらい暖かい笑顔。彼女らしく、控えめに微笑む。俺の一番好きな表情だった。

「あー」

反則っスよそれ。
熱くなった顔を伏せ、また俺は何も言えなくなる。
モデルとか、キセキの世代とか、雑誌のフォントを派手にした文字が目に映る。世の中の大多数は、色眼鏡つけて俺のことを見てくれている。黒子っちには負けるけど、洞察することには長けているつもりだ。期待通りの顔をして、俺は常に理想的で誰にとっても完璧に動くことができた。けれど、本当の自分を見られるということの、対処の仕方を俺は知らない。適当に媚びて褒めてさえくれたら、それ相応に振る舞うのに。彼女は決してそうしない。いつも本当の声で笑ってくれる。いつも本当の俺を見ようとしてくれる。

だから俺はなまえが好き、だった。

「黄瀬くん照れてる」

あー、質悪ぃー。
くすくす笑われても、図星過ぎて反論する術がない。

「照れてないっスよーもー……ん?」

あるものがふと視界の端に入り、本能的に笑顔から雑誌からついそちらを注視してしまう。慌てて明後日の方向へと目をそらすが、あまりにも不自然でなまえは首を傾げた。

「どしたの?」
「あははなんでもないっスー」

曖昧に笑い、平静を装う。これはいけないと、また雑誌へ確かに目を向けたのに、何故か視線はそろそろ雑誌から上へと動き、なまえの胸元へ。そう、なまえは谷間が見えていた。近付いたら近付いたでぶかぶか過ぎて開いた胸元から谷間がちらりと見えて気が気じゃない。
ああなまえっち意外とおっきいんスね……。
今この場で知りたくはない事実だった。会話は上の空で、俺はひたすら思案した。勿論答えは出ない。


どうしたら俺がなまえをなんとかできるかなんて答え、多分一生出ない。

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