大学パロ(帝光大学大学院原澤ゼミ)


携帯のアラームと目覚まし時計が同時に鳴り始めたのが3時半。5分ごとに鳴り続けるのを、30分間半分寝ながら聞いていた。ようやく起きたのは4時で、寝たのはそういや2時だった。2時も4時も、みょうじはまだ研究室にいた。仮眠をとろうと思ったのは6時だ。そっから学校始業開始時間の9時まで3時間は寝られた。そしてさつきに叩き起こされた。正直何が仮眠で何がレム睡眠でノンレム睡眠なのか分からなくなっていた。リポD飲んでついでにコーヒー飲んでさつきの弁当たらふく食ってゲップしてから実験した。時間を有効に使えとよく教授に睨まれるが、俺は実験が好きだった。勿論バスケの方が好きだけど。時間あるなら体力あるならバカみてーに実験やったっていーだろ別に。マジ眠ぃけど。



そんなこんなで再び短い仮眠をとろうとしたのが16時。仮眠室の中には確かみょうじがいる。蹴っ転がしてどかす。大あくびをしながらドアに手をかけたが、中から声が聞こえたので動きが止まる。その声はみょうじの先輩の今吉のものだ。今吉は研究室的には俺の先輩でもあるが、今や「みょうじの先輩」だった。覚えのないほどに機嫌が悪そうで、関わらないようにしようと後ずさる。だがしかし、声は聞こえる程度の位置に。ドアから少し後ろの棚に音もなくよりかかる。みょうじが何を仕出かしたのか、興味だけはしっかりあった。まあ大方予想はつくんだけどな。

「盗み聞きとは悪い子や」

実験好きなみょうじにえげつない命令を下した今吉は、人の悪そうな笑みを貼り付けたまま仮眠室から出てきた。ただ機嫌はより下降していた。みょうじの声は終始小さく、部屋の外からは全く聞き取れなかった。だからあいつが何をどう言って今吉の機嫌を落ちるとこまで落としたのか全くわからない。

「俺はさっさと寝たかっただけだっつーの」
「せやったら席でワシらが出てくの待ってたらええのに」
「あー」

俺にはまともに言葉を交わしながら今吉を避ける方法が思いつかない。面倒だ。そういう感情は思いっきり顔に表れたらしく、今吉は俺の顔を見て笑った。

「すまんなぁ青峰」
「そーだな」
「まあ、面倒ついでにみょうじのこと慰めてやってや」
「はあ? なんで俺がそんなことっ!」
「ほな、よろしゅう頼むわ」

手をひらひらと振りながら、背中を見せる今吉にはどんな文句を言っても無駄だろう。それにしてもドSでツンデレとはどんだけめんどくせーんだ。みょうじも大変だよな。そうは思ったが、今の俺にとってはみょうじも十分面倒だった。眠い。



「あおみねくん……」

ドアを開けて現れた俺を、みょうじは何の感情もなく目に映していた。どこか呆けた面して、焦点も俺を見ているはずなのに定まっていない。慰め役という心底面倒な貧乏くじを引かされた割に、俺は適任ではなく、多分今吉にしか全うできない。どんだけへこんでるんだよ。深い溜め息が出ると、その焦点は一気に俺へと定まる。みょうじは弾かれたように立ち上がった。

「いい、そのままで」
「いやでも、仮眠……!」
「そんな顔して出てってみろ。さつきや良が心配するだろーが」
「う、」

ぽすんと電気が切れたロボットみたいにまたベッドに腰かけると、今度は顔を上げなかった。慰めるとは言ってもどうしたらいいのかわからない。頬がかいーし頭も痒い。ぽりぽり掻いて、部屋中を見渡すが、良い案は見つからない。

「悪かったなチクって」
「青峰くんのせいじゃないよ」

だろーなと口から出かかった同意を咄嗟に喉の奥に押し込んだ。とりあえず眠いのでみょうじの存在は置いといてベッドに横になった。今度こそみょうじは立ち上がろうとしたが、「何回言ったらわかんだよ」と睨んだら何か言いたそうにしながらも口をつぐんだ。目を閉じたらその瞬間に意識が飛ぶだろう。だが、体全体から力を抜いて、身を預ける今がどうしようもなく心地良い。みょうじが俺の方を見て、そろそろと頭を撫でた。

「眠い?」
「たりめーだろ」

手のひらが馴染んで溶けていくような感覚。暖かくて、気持ち良い。けれどそうはいかない。寝ちまいそうだからその手をどけろ。そう言いたかったからみょうじの手首を掴む。細っこい、女にしかない手首だった。力を入れると今にもへし折れそうで、酷く頼りない。今吉はきっと、実験のたびいつもいつもこの手首を見ていたのだろう。胸が意外とあるとか実験中見えたり当たりまくってうざいとか、どうでもよさそうにぼやいていたのを思い出す。こいつがやっぱり女で、弱くて脆いことを理解していたのだろう。

「お前の大好きな先輩とさぁ」
「うん」
「……大好き否定しねーのかよ」
「私先輩大好きだよ?」「お前のそういうとこ本当駄目だと思うわ」
「そうだよね、怒られて嬉しかったし」
「お前それあいつに言ったのか」
「うん、だから先輩に呆れられたんだけどね……」
「よし、今は忘れろ頼むから」
「ごめん……」
「お前さ、今吉とレイプもののAVでも見れば?」
「は!?」
「ガチっぽいのリストアップしてやるから借りてこい」
「嫌だよ!」
「んでムラムラした今吉に襲われろ」
「嫌だよ!! てゆーか先輩私になんか興味ないって!」
「つーかそーゆー問題じゃねぇってあいつ言ってたろ」
「…………はい」
「俺レイプものあんま興奮しねぇけど、」
「聞きたくないです」
「好きな奴は好きだと思うぜ実際」
「うーん、確かに。なんでそういうの好きかなー」
「さあな。ま、やっちまう奴がいるのも事実ってこった」
「うん」
「女って弱ぇよな。俺さっきお前のこと素手で殺せるって思った」
「怖っ!」
「握力とか考えたら普通にいけるだろ」
「まあそうだけどさ」

案外みょうじは元気そうだ。いい加減眠くて、ここで一気に寝てやろうと思う。まだ何かを言おうとしていたみょうじを尻目に、そっと目を瞑る。常闇に落ちていくように徐々に意識を手放す前に、言いたかったことを伝えたい。

「だからさ、」

あいつが守りたいって思ってる間ぐらいは、守ってもらえた方がいいだろ。

最後まできっちり喋れていたのかは記憶がない。そこから目を開けることはなく、気がつけばみょうじはいなかった。ただ起き抜けに今吉がえらく上機嫌に絡んできたのは覚えてる。俺の慰めが効いたのならそりゃよかった。もう俺を巻き込むなよな。あー眠ぃ。

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