雨、雨、雨。
激しい雨が窓を打ち付けては、うるさく音を奏でる。音楽は好きだけれどこうも賑々しくては敵わない。
それに今日は一年に一度の。

「ねえ、S!Nくん」

ベッドの上に座っている、彼が、僕の名前を呼ぶ。たったそれだけのことなのだけれど、嗚呼。ぞくりと背筋が震える。このひとの声にはもしかして、媚薬的な効果でもあるんじゃないかと思うことが多くある。それほどまでにこのひとは他人を、僕を魅了してやまないのだ。けれど、これは彼が無意識に放っているもの。僕だけが享受しているものではないのだと考えると、やはり嫉妬してしまう。

「どうかしましたか、どれすとさん」

うぅん、と小さく声を漏らしてそのまま黙りこむ彼。伏せたまつげが、美しい。

「眠いんですか?寝ますか?どれすとさん」

カーペットから腰を浮かせてベッドへとのぼる。寝てる彼相手にでもいいかなあと思ったなんて、まさかそんな。

「…いや、雨だなって思って。せっかく今日はS!Nくんの誕生日なのに残念だね」

「……ああ、いいんです。いいんですよ、貴方さえ居れば」

まるで猫のように丸くなった彼の上へと覆い被さる。ふわり、と甘いかおりが鼻腔をくすぐる。僕はこの女性もののシャンプーの匂いが好きだ、街中でこの匂いを感じるとついていきたくなるくらいには。最近僕もシャンプーをどれすとさんと同じものにしたから、今は僕もこの匂いがするのだろうか。

「…おめでとう、S!Nくん」

そう言いながらこちらを見上げる瞳が美しくて、あまりにまっすぐで、僕は、もう。

「どれすとさん、プレゼント下さい」

「うん、用意してきたよ」

持参した鞄の方へと伸ばされる手を制する。すこし驚いた様子の彼もまた魅力的。わずかに開いたままの唇が、甘美な果実のように赤く熟れた様子で僕を誘惑するものだから、思わず塞いでしまった。

「ん、……S!Nくん…?」

僕を疑問の灯った瞳で見上げながらも、やはりどこか余裕に満ちた表情。――…ううむ。

「……プレゼントには、貴方が欲しいのですけれど」

「…あはは、S!Nくん随分ベタだね」

やはり余裕の笑顔。これはタチとしてもなかなか悔しい状況である。勿論余裕綽々のどれすとさんは美しい。どこか浮世離れしていて、人間じゃないみたいに。だけど、しかしながら。目一杯よがって喘いで啼いて僕を、僕だけを見てほしい。そう思うのは男の性ってやつではないのか。

叩きつける雨の音が強まった。このテンポにこのボリュームならば、隠してくれるだろう。僕の浅はかな思考を。

だから今日くらい、今日くらいは僕の好きなようにさせて下さい。

「…どれすとさん、……僕を求めろよ」




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