どうしてだろうか。臨也はいつからか"おかしく"なっていた。それは俺の知らぬ間に。
臨也が告白をした日、俺はアイツを恋愛対象とは見えなかった。ただ大切な家族とでしか。だからと言って俺はコイツを傷つけたくは無かったのに、いつからかコイツの心の中はぽっかり空いていた。

恋人が出来てからは臨也と話す機会も無くなったし、会う機会も無くなった。登下校もしなくなったし、部屋に居ては恋人と電話だったり、家に泊まりに行ったりで少ししか会話はしなくなった。だが臨也は、電話している俺を見たら部屋から無言で出て行き、放課後とかに話していて恋人がやってくると笑いながら「じゃあ俺は先に帰る」と、俺たちの邪魔をしないように避けて来た。
たぶん…あの日から臨也はおかしくなったのだと思う。

俺が生きる糧だと笑う臨也。俺が死ねと言えば死ねるという。そして…楽になるために死にたいという。馬鹿馬鹿しいと思った。

――「馬鹿じゃねぇのか!?そんなの、俺が許すわけねぇだろ!!」
――「じゃあ生きろって言うの?」
――「あったりめぇだろ!!」
――「君をどんなに想っても報われなくて、生きろという言葉に生きる理由もないのにしがらみに生きろっていうの?苦しいだけの生活を耐えて行くの?ああ、うん。でも君が言うなら生きる。生きるよ」

その言葉に、自然と涙が出た。

コイツは家を出たせいで父親は犯罪者になり、母親はその父親に殺された。自分さえ居なければ良いのだと家に閉じ込められている時から思ってたことだろう。それなのに俺が好きだから生きて来た。だが今更、俺は結婚すんのに生きる意味が無いのに生きろと俺が言ったからコイツは生きる。色んなもん一人で抱えて。
だからと言って死なせるわけには行かねぇ。あたりめーだ。家族なんだ、一番大切な奴なんだ。死なせたくねぇ。

だが、だが、一体どーしたらこいつは救われるんだ?

「ごめん、ごめんね。俺が変なこと言ったから、」
「手前ぇのせいじゃねぇ」
「ごめん」

なあ、臨也。
俺は幸せだ。すんげぇ幸せだ。子供も出来て可愛い嫁貰って、すげー幸せだ。
だけど、手前ぇも幸せじゃねぇと…俺は嫌なんだ。

「俺は臨也が大切だ。一番大切だ。死なせたくねぇし、でも苦しませたくもねぇ」
「…うん」
「俺は馬鹿だからよ。こんなことしか言えねぇけど」




「ずっと俺の傍に居ろよ、臨也」
























ぶわっ、と目から涙が零れ出した。本当に馬鹿なシズちゃん。馬鹿だよ、本当に。

「傍に、居たい…。居たいよ」
「今まで悪かった、手前ぇだけ辛い思いばっかさせて。……でも、手前ぇが大切なんだ、好きなんだ。死ぬなんて言うな、俺が生きる糧ならそれらしく、俺の傍にいろ」

死にたい。でもシズちゃんが言うなら生きる。なんて感情はビックリするぐらいに吹き飛んだ。まるで覆っていた曇が晴れたかのように。
俺はシズちゃんの傍に要られる。
それだけで充分幸せじゃないか。

「好き、好きだよ。シズちゃん」
「ああ」

俺はシズちゃんに抱きついたまま、暫くの間泣き続けた。

天国にいるお母さん。
暫くは、そっちに行けそうにありません。






やがて平和島家には可愛い子供も産まれて幸せそうだった。俺は今も、大好きな人の隣でゆっくり息をしています。


pianissimo
(ゆっくりと呼吸を繰り返すように)
(俺は死ぬまで彼の隣で息をした)

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