まい わーるど
・妃咲と那由(妃咲導入話)
『お前なんか、いらない』
その時、少女の中の何かが、ガラリと音を立てて壊れた気がした。
残酷な言葉を告げられた少女は、声をあげることも、泣くことなく、ただただ『そいつ』を見つめるだけだった。
そして、誰もいなくなり、そこで少女は初めて知った。独りになったと。
悲しくはなかった。寂しくもなかった。
ただ悔しかった。
そして少女は誓った。
いつか絶対あいつらを――……
*
「……さ、……きさ……っ! 妃咲!」
「……っ!!」
自分を呼ぶ声に、ビクリと体を震わし、伏せていた顔を勢いよくあげた。
見ていた夢の影響もあるのか、動悸が激しく、背中は汗でじっとりと濡れていた。
「大丈夫か、妃咲」
「あ、うん……」
側に立つのが、自分の信頼出来る人だとわかり、ほっと肩の力を抜く。もし、今、隣に立っているのが彼じゃなかったと思うとぶるりと鳥肌が立った。
机で寝ていたからといって、危険な目に合うことはけしてない。だが、他人の前で無防備な姿を晒すことが私には耐えられなかった。
「……那由くん、何か用ですか?」
「妃咲を捜しにきたんだよ」
「私を?」
何か約束してただろうか、そう考えてはみたものの、思い当たるものはなかった。
「なぁ――」
「あ、きぃちゃん! と……、那由君も一緒だったんだ」
那由が口を開いたと共に、クラスの女子が教室に入ってきてその言葉を遮った。
今まで無表情に那由を見つめていた私は、反射的にぱっと笑顔を浮かべる。
「どうしたんですかぁ?」
「先生がきぃちゃんのこと捜してたよー」
「わかりました。今行きますぅ!」
用件を手短かに伝え、じゃあね、と手を振って教室を出て行く彼女に、同じように手を振り返す。那由も隣で片手を上げて答えていた。
「私、先生のとこ行ってきます」
「妃咲」
「な――」
先生が私を呼んだ理由も、那由が私に話そうとしていることも、だいたいは予想出来た。わかってるからこそ那由の前から去りたかった。
でも、掴まれた右手が、私の行動を阻止する。
「妃咲」
「…………離して」
「お前、セナン国立魔法学院に行くって本当か?」
予想通りのことを言われ、那由を軽く睨みつける。
想像以上に真剣な瞳に見つめられ、少し怯むが、私も引くことは出来ない。
「だったら何ですか? 那由くんには関係ないですよね?」
「なんだよ、それ」
「私のことは、放っておいてください」
呆気に取られた那由の手を振り払い、先生が待つ職員室へ向かう。那由は追いかけてはこなかった。
これでいい。ここから先は修羅の道だ。
『必ずあいつらを殺してやる』
『そんな悲しいことはすんなよ。妃咲が良くても、俺は嫌だ!』
那由には言っていないが、あの誓いは既に破られている。情に絆された幼い自分が、変えてしまったのだ。
――でも、もう二度と、情には流されない。
『いつか、名を世に広め、あいつらを見返してやる』
その為には非情になれ。無慈悲に人を傷付けろ。
「……“戦争”という理由がないと、人を傷付けることも出来ないくせにね」
――それでも、私は引くわけにはいかない。