another




ドアノブに手を掛け――――――既視感。





自分は前にもこの扉を開いたことがある。前にも出口を探して全力疾走したことがある。
一つ思い出すと、そこから糸を手繰り寄せるように次々と記憶が蘇ってくる。

寂れた建物。無音、無人の空間。
破裂音。落ちるわたあめ。鳴り響く警鐘。
「どうぞ、お嬢さん」渡される美味しそうなわたあめ。
テーマパーク。明るい色。軽快な音楽。夢のような――――否、夢の世界。



「これは、夢……」




手を掛けたままのドアノブを……扉を見つめる。



この出口が目を覚ます合図だとしたら、この扉を開かなければ自分は――……


意識された『死』。
眠っているように死んでいく私。

永遠に続く夢の世界。



とても恐ろしく、そして少しだけ魅力的だった私の妄想。





いつの間にか手には、あのふわふわしたわたあめが握られていた。



(食べたい)



今はそれどころではないのに、異常な程その欲求が強くなる。



(食べたい)


(それどころじゃないのに)


(食べたい食べたい食べたい)


(食べてはいけない)



ごくりと喉が鳴る。



(私がいない現実――)



あーんと大きな口を開ける。



(それは、なんて――)




ぱくりとそのふわふわを口に含む。



(魅力的なのだろうか)



口の中に広がる甘さに、どうしようもなく幸せを感じる。



「ようこそ。可愛い可愛いお嬢さん」



後ろを振り向けば、あのウサギとお兄さんがいて、いつの間にか色が、人が、音が戻っていた。



――あの扉は姿を消していた。


――そのことに私が気付く時は


――永遠にこない


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