dream world




※月夜?




そこは、画面越しでしか知らないテーマパークだった。
明るい色に溢れ、軽快な音楽が鳴り響き、いる人皆が笑顔を浮かべている、夢のような世界。



「どうぞ。可愛いお嬢さん」



テーマパークのマスコットキャラなのだろうか。大量のお菓子を持った可愛いウサギと係員のお兄さんが近付いてきて、一つのわたあめを差し出した。
普段なら無視してしまうが、この雰囲気に呑まれたのか素直にそのわたあめを受け取った。
ふわりふわり甘い匂いを放つそれにぱくつきたいと思った。
あーんと大きな口を開け、そのふわふわを口にしようとした途端、破裂音が響き、驚いた拍子にわたあめは手から離れていった。

浮ついていた思考が冷静さを取り戻す。
地面に落ちたわたあめを見る。表面積の大きなそれは、地面に着いた面を避ければまだ食べられる。
しかし――


(これは、食べてはいけない)


何故そう思ったのかわからない。ただ本能が警鐘を鳴らしていた。



(早くここから出ないと)



その思いにも何の根拠はない。
ただ焦燥感に駆られ、走り出す。何処が出口だかも知らずに。
気付けば音楽は鳴り止み、人もいなくなっていた。明るかったテーマパークは古ぼけて寂れた建物になっていた。
走っても走っても出口はない。それが怖くて、不安で、必死に気持ちを奮い立たせながら走った。



どのくらい走ったかわからないが、心臓がばくばくと痛いほど脈打ち、呼吸も荒くなって苦しい。もう止まってしまおうか。そんな考えが頭を過ぎった時、『それ』は見つかった。
暗闇の中に浮かぶ一枚の扉。そしてその隙間から漏れる光。それが出口であると確信し、重たい足を振る立たせて走り続けた。

そして、ドアノブに手を掛け、勢いよく扉を


→開いた。

開かなかった




ぱちり


ぱちぱち



――そこで目が覚めた。


瞬きを数回してそのことに気付き、そしてあそこが夢の中であったことに気付いた。
体は疲労し、背中はじっとりと汗ばんでいた。頭も鈍く痛み、体を起こすのがひどく煩わしかった。
持ち上げかけた頭を枕の上に戻し、ゆっくり目を閉じる。
瞼に蘇るは夢の世界。明るいテーマパークと美味しそうなわたあめ。一転して寂れた建物。無音の空間。


はたと気付く。あの出口が目を覚ます合図だとしたら、あの扉を開かなければ自分はどうなっていたのだろう。



考えたことはあるが、意識したことはない『死』がそこにはある気がした。



あそこをくぐらなければ、ずっとあの世界にいられる。
現実では眠っているように死んでいるのだろうか。


それはただの想像――いや、妄想と呼べるかもしれない。
でも、それはとても恐ろしく、そして少しだけ魅力的だった。






2つ目の矢印から夢の世界へ






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