繰り返し繰り返す



※尊斗と満月と唯波




泣いている。
満月が、泣いている。



「みーくん」



小さく名前を呼ばれる。
視線が合う。
その瞳は、“どうして”と俺を責めていた。

俺は、間違っていたと、初めて知った。



***


笑っている。
みーくんが、笑っている。
その傍らには、死体が転がっている。


「みつき」



小さく名前を呼ばれる。
みーくんの手は赤く染まっていた。



「どうして……」


涙を流すと、みーくんの表情は凍りついた。



***



目を覚ますとそこは、見慣れた自分の部屋。
今のは夢だったと知った。

夢の中で自分は、5人の人間を殺した。
それは満月を虐めていたグループだった。


『お前を傷付けた者、殺したよ』


そう笑いかけると、満月は、泣いた。


何故泣いたのか、その時はわからず、ただただ困惑した。



「俺は、間違ってたんだ」


足りなかったんだね







「あと、10人」



地面に倒れ伏し、ピクリとも動かない女を横目に小さく呟く。
残されたもう一人の女は、みっともなく涙と鼻水を流しながら、意味のない言葉を口から漏らし、片隅で震えている。



「わ、たし、なにも……っ」

「見て見ぬふりしてただろ」



彼女の必死の訴えを一言で切り捨て、短剣を向ける。
そして一気に距離を詰めた。








「ねぇ、尊斗なんだよね。今までのも全部」



唯波に会った。
何故か、とても懐かしい気がした。
唯波はとても悲しそうな顔をして、俺の手を見つめていた。



「もうやめなよ。こんなことしたって……」

「満月は戻ってこない。わかってる。だけど、夢の中で満月はいつも泣いてる」

「何で泣いてるか、尊斗にはわかってるの? 満月が、こんなことして喜ぶと本当に思っているの?」



夢の中で満月は、“どうして”と自分を見るだけで何も言ってはくれない。


「何をしても笑わないんだ」


唯波は何か言おうと口を開いた。
何故か唐突に“聞きたくない”という気持ちが強くなり、俺は逃げ出した。


***


また、みーくんは来た。
今まで以上に手を赤く染めて。


こんなこと、して欲しくない。
何度繰り返しても、みーくんには届かない。


今回も、みーくんは困った顔をする。
私の声は出ない。
ただ、涙が流れるだけで、声は、出ない。



「満月」



それはみーくん以外の、聞き慣れた声だった。



「唯くん」



久しぶりに声が出た。
唯くんはとても悲しそうな顔をしていた。



「ねぇ満月。君の願いは、尊斗の願いでもあったんだよ」



よく、わからない。
唯くんの言っていることがわからない。
“わかりたくない”



「ねぇ満月はまだ――」



私は耳を塞ぎながら叫び声をあげ、その場にうずくまった。




***



また、夢を見た。
クラスメイト全員を殺しても駄目だった。


――考える。


――気付く。



無意識のうちに除外していた、1番の罪人の存在に。



「1番近くにいたのに、何も出来なかったのは、俺だ……」



***



みーくんが、また、来た。
今度は全身真っ赤だった。

何故かすぐに、それが他人の血ではないとわかった。



「なぁ満月。俺は、償えた?」

「こんなの、私は望んでないのに……!!」



償うとか、そんなのどうでもいい。
私はただ、みーくんに生きていてほしいだけなのに。



「何でわからないの!!?」



***



「嫌な夢を見た……」


溜め息一つ。
隣のベッドには誰もいない。


「満月は、いない」


あいつらは、いる


「そうだ、あいつらは、いる……」



傍らのナイフを手にし、部屋を飛び出した。



「みつき」



***



今日も声は届かない。
みーくんには触れない。
ただ繰り返す。

みーくんが、普通に生きられる世界を夢見て。



***


「ゆめ」



繰り返すこと52回


償うまで、終わらない。



「なんで……」


償えないまま、53回目



「みつきがいない世界なんて……」



*****



満月は、悪意だらけの世界に耐えられず、自ら命を絶った。
尊斗は、復讐の為だけに生き、ついに心が壊れた。



「ねぇ尊斗。復讐なんて、満月は望まないと思うよ。手を赤く染めた尊斗を見たら、満月は泣くだろうね。だからもう止めなよ。君が幸せに生きていくことが、満月の1番の願いだと思うんだ」


「でも満月、君も勝手だね。君がいない世界で、尊斗が生きていたいと思えると、本当に信じているの?」



2人とも、答えてはくれない。



「ねぇ、お互い側にいたのに。僕だっていたのに……。どうして1人で全部決めて、いなくなっちゃうの……?」


返事はない。

ピッ、ピッ、という規則正しい電子音だけが、2人がまだ息をしていることを教えてくれる。

だけど、今日も、2人は目覚めない。



「君たち、双子なんでしょ。一緒に戻っておいでよ……」




今日も、2人は、目覚めない






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