一緒なら、怖くない



・妃咲と那由





周りに合わせて笑って、みんなを、自分でさえも偽る。
段々、何が本当がわからなくなる。自分で自分を見失ったら、一体私はどうなってしまうのだろう。

心の中で、泣いて泣いて泣いて泣いて。
そうして出来た涙の海に身を投げれば、ゆっくりゆっくりと底へ沈んでいく。


苦しい。悲しい。怖い怖い怖い。
逃げたいと思えば思う程に私は沈んでいき、光が遠ざかっていく。



『――!!』



誰かの叫び声がする。
遠く遠くのあの光から。



『―さ…!!』



『妃咲!!』



それが自分の名前だと気付くと同時に、ほぼ無意識に光に手を伸ばしていた。
自分には、無くしてはいけない何かが――誰かがいる。
その伸ばした手を、誰かは掴む。
?まれた手のひらから伝わる温もりがとても心地よかった。
顔を見なくても誰だかわかる。唯一安心出来る人の手だと。
だが、その手がぐっと自分の手を引くのを感じると、とてつもない恐怖に襲われた。



「もう、戻りたくない……」




あそこにいるから苦しい。悲しい。怖い。
手を引かれ、光が大きく近付いてくる。それに比例して恐怖も大きくなっていく。


――またあそこで笑うくらいなら、全てを捨てた方が…………。



そう思い、彼の手を振りほどいた。


『妃咲』

「那由、私はいきません」


静かに、でも強く告げると、那由の手はなくなった。
少しの寂しさと安堵。私はゆっくりと目を閉じる。
これでいい。これが、いい。
自分に言い聞かせるように何度も呟いた。




「妃咲」



名前を呼ばれた気がして目を開けると、何かに包まれた。
それは、先程手を振りほどいた彼の腕で、優しく、でも逃げられないように強く抱きしめられる。



「え、な……ん、で?」

「妃咲を一人置いてなんていけない」

「きぃは、もう戻りたくありません」

「なら、オレも一緒に行く」

「深くて暗いところまで、沈んじゃいますよ……?」

「いいよ。お前と一緒なら」



優しく言われて、じわりと涙が浮かぶ。
那由はそっと私を離すと、手を差し出した。

今度は振りほどかないよな。

そう笑う那由に、私も涙を浮かべたまま笑い返す。



「一緒に来てください」

「喜んで」



手をぎゅうと握り返して、2人で一緒に目を閉じた。


恐怖はもう、消えてなくなっていた。



*那由と妃咲if




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