異常な少女が始まりだった




・フィーラとレイア





フィーラはオペラハウスの前に集まった自分以外の7人を見渡した。誰もがこの異常な状態の中、落ち着いて談笑を交わしている。
どうやらそれぞれ見知った顔がいるようで、自然と各学校に分かれて話をしている。
フィーラ自身も学科は違えど、ウィルフレッドとシスカのことは知っており、何度か言葉を交わしたこともある。それでも今は話をする気分にはなれず、ぽつんと隅に座っていた。



「きみは、敵は敵だと思うー?」

「は?」

「だって、ずっとみんなをこわーい顔で見てるよう? 敵を前にして笑顔でいるから気に入らないのかと思ったよう」



話し掛けてきたのは唯一1人であるフラディルの少女だった。先程の自己紹介で聞いた名前を思い返しながら、フィーラは返事を返す。



「終始睨み合ってるよりはいいと思う。ただ、あたしがそんな気分になれないだけだ」

「ふーん」



聞いてきたくせに興味なさそうな返事をする少女に眉を顰めながら、少女の名前がレイアであったことを思い出した。



「でもさー、不思議だと思うよう?」

「何が?」

「このシチュエーションだよう。こーんなキレイな分かれ方だよう? 誰かの意図が絡んでる気がするよう」

「……例えば?」

「どこかの国の罠、とかねー」

「罠?」

「そー。これから、何か起こるかもねー」



意味ありげに笑う彼女に、背中に嫌な汗が伝うのがわかる。恐怖というよりどこか不気味だと思った。
フィーラは震える唇をぎゅっと噛み締め、強い眼差しをレイアへ向ける。



「なぁ、お前は――」




フィーラの言葉を電子音が遮った。ポケベルが鳴り響き、みんなの声が一瞬で消える。そして音の出処――吾妻橙の元へ視線が集まった。
橙は訝しげな表情をしながらポケベルを取り出し、そこに届いてるであろうメッセージに目を通す。その表情はみるみるうちに驚愕へと変わっていく。



「だいちゃん、どした?」



隣にいた大崎五英が話し掛ければ、橙は表情を引き締めた。一人ひとりの顔を見渡し、最後にレイアを見つめる。



「『レイア・アロディ硝子化まで16時間』」



え、と誰かが呟いた。自分だったのかもしれない。それさえも判断出来ない程フィーラの頭の中は混乱していた。
嘘だと言おうと口を開くが、声を出すより早く橙がポケベルをこちらへ向けてきた。
短い文章を一字一句読み取るようにじっくりと目を通す。それでもそこに記されてる言葉が変わることはなかった。



「なんだよ、これ……」



フィーラの言葉を受け、みんな口々に感情を吐露していく。その中でレイアはただ一人冷静に笑っていた。


「最初はぼくかー」

「――お前はっ! お前は何か知ってるのか!?」



責めるように、縋るように、フィーラはレイアに問い詰める。それでもレイアは冷めた眼差しをしていた。



「ぼくは何も知らないよう? ただ、誰かの策略なら面白いと思うだけだよう」

「面白いとか、不謹慎だろ! 硝子化ってことは、お前は消えるんだぞ!」

「そうだねー。でもぼくはー、そんなの怖くも何ともないんだよう」



それは嘘ではなく本気の言葉だった。だからこそフィーラは、この少女を心から怖いと思った。



「あ、でもこの結末が知りたいからー、1番に脱落するのは面白くないよう」

「狂ってる……」

「褒め言葉として受け取っておくよう」



微笑むレイアをフィーラはもう見つめることが出来なかった。






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