生きているんだ




・尊斗と唯波(と満月)(尊斗導入話)



「満月ちゃん。あれ、店からパクってきて?」

「え? ぬ、盗んでくるのですか?」

「そう。店員が見てない隙にパッと盗ればいいの。簡単でしょ?」



にやにやと笑う女達の顔からは醜さだけが溢れていた。彼女達は本気でアレが欲しいわけではない。ただ、満月が盗もうとも失敗しようとも、それをこれからのネタにして楽しむだろう。
腐ってやがる。尊斗は彼女達に聞こえないように呟いた。




男にしては低い身長も、高い声も、全ては満月を守る為のものだ。尊斗はそう思っている。だからこそ、こうやって入れ替わっても誰一人気付かない。



「満月ちゃん、早くぅ!」

「えと、あの……」

「ほら! うちら『友達』でしょ?」

「じゃ、じゃあ……中まで付いてきてくれませんか……?」

「いいよぉ! 隠してあげるから上手くやんなよぉ?」



ぎゃははと品の無い笑い声をあげ、彼女は尊斗の手を引いた。尊斗は単純な彼女に笑いを必死に耐えながら、手を引かれるままに店内に足を踏み入れた。



「こ、これですか?」

「そうそう。早く」

「今なら誰もいないよ」



こそこそと尊斗を囲うように立つ彼女達。尊斗は躊躇うふりをして彼女のバッグに商品を潜り込ませた。そして大声で叫ぶ。



「万引きです! 誰か来てください!!」

「なっ!!」



彼女達は慌て、そして憤慨し尊斗を捕らえようとするが尊斗の方が一足早かった。



「二度と満月に近付くな。今度あいつに何かしたら、こんなもんで終わると思うなよ」

「てめ、みこ……!!」



店員に連れていかれる彼女達をもう振り返ることなく、人混みに紛れて尊斗は店内を後にした。







「満月……じゃなくて、尊斗?」



家を帰る途中、不意に呼び止められ尊斗は振り返る。



「唯」

「どうしたの? また、満月に何かあったの?」


唯波は心配そうに顔を曇らせる。長い付き合いなだけあって、だいたいのことはわかっているらしい。



「まぁ……。でももう、終わったから」

「そっか。僕に出来ることがあったら何でも言ってね」



深く突っ込んでこない。そんな唯波だからこそ関係を長く続けてこれたのだと尊斗は思う。



「なんで満月は、あんな奴らを信用するんだろう」

「ううーん。満月は、信用“してる”んじゃなくて、信用“したい”だけだと思うよ」

「は?」

「だから、満月も心から信用出来ないんだ。でも、それじゃあダメだから、誰かを信用しようともがいてる」



意味がよくわからず尊斗は困惑するが、唯波はそれ以上説明はしなかった。尊斗も何も聞かない。どんな理由があっても、満月の心は理解出来ないから。



「2人はさ、何があっても離れないからいいよね。例え何かがあっても片方が守ってくれる。それがわかっているから好きに生きれるんだ」

「好きに生きてないから、こんなことになってるんだろ」

「そうだけとそうじゃなくて……うーんと、なんていうか、お互い依存して生きてるんだよ」



満月は尊斗がいるからこそ安心して人を信じようと思える。
尊斗は満月がいるからこそ安心して人を信じずにいられる。
守ることも、守られることも、相手の為だと思いながら自分の為でもあるんだ。



唯波はいいなぁと笑う。裏表のない純粋なその笑み。
結局尊斗には唯波が何を言いたいのか半分もわからなかった。それでもやはりそれ以上は聞く気になれず、そのまま唯波と別れるのだった。




僕達は依存して生きてるんだ





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