夢と現実と
※Twitterお題:ガーネットちゃんとフィーラ
「夢にね、フィーラちゃんが出てきたの」
ガーネットはフィーラの前に立ち、ぽつりぽつりと語り出す。フィーラは、それにどう反応を返すべきか悩みつつも、ふんふん、ととりあえず相槌を返した。
「いつものように学校に来たらね、フィーラちゃんの髪が短くなってるの。みんなは『可愛い』『似合う』って褒め称えるけど、私だけは、前の方が良かったなって思ってた……」
むしろ似合わないなって……とガーネットは申し訳なさそうに言う。
「やけにリアルだったから、正夢だったらどうしようって思ったんだけど、夢で良かった」
ガーネットの笑顔にフィーラもついつい顔が綻ぶ。夢の中の話とはいえ、今の方がいいと言ってもらえるのは素直に嬉しかった。
「リアルな夢って怖いよな」
「うん。教室とか、本当にそのままだったし……」
「あたしも最近、リアルな夢をよく見るんだ」
「そうなんだ」
「現実と何の変わりもない。起きた後にふとあれは夢だったのか、って気付くくらいリアルで、映像も匂いも音も味も、感覚でさえ現実と変わらない。頬を抓った痛みだって感じてしまう」
途中から早口に、前に乗り出して語り出すフィーラにただならぬ雰囲気を感じて、ガーネットは僅かに身体を後ろに引いた。
「見た目がそんなに違えばわかりやすくていいよな。一目でここが現実だとわかる」
――なぁ、ガーネット。
ガタン!
静かに名前を呼ばれ、反射的に後ろに下がったガーネットは、思いっきり机にぶつかった。
だが、その痛みも感じている余裕がない程に目の前の少女に恐怖を抱いていた。
「わからないんだ。ここが夢なのか現実なのか。お前はあたしの夢の中で夢の話をしているだけかもしれない」
悲痛なその訴えにガーネットの胸が痛む。
ガーネットはここが夢ではないことはわかっている。だが、その理由を問われたら答えられない。
『感覚』としか言えず、その感覚は人と共有することは出来ない。
だけどガーネットは、未だに拭うことの出来ないフィーラへの恐怖心から、声を出すことが出来ない。
夢か現実かを悩む少女の何が怖いのだろう。そう思うが、底知れない恐怖がガーネットを蝕んでいる。
その怖さの意味をガーネットはすぐに知ることとなった。
「で、あたしな、夢から覚める方法わかったんだ」
フィーラは一転してぱっと顔を輝かせると、懐からナイフを取り出した。
「こうすればいいんだ」
フィーラは迷うことなく自分の首にナイフを当て、勢いよく突き刺した。
ガーネットが伸ばした手は、フィーラには届くことはなく、生温かい赤に染まった。
「あ、ああ……」
派手な音を立てて倒れるフィーラに、ガーネットは自分でわからないほど絶叫し、その場に崩れ落ちた。
涙も声も枯れ果てた頃、ガーネットは声にならない声で呟いた。
「これは、夢だ」