まわる せかい




Twitterお題if:桐ちゃんと天音




どくどく。
心臓の鼓動に合わせて血が流れていく。
地面に赤い水溜りが出来ていく。
止血しようと押し当てたタオルも真っ赤に染まり、ボクは悟った。彼女はもう手遅れだ助からない。
それでもボクは懸命に処置をした。まだ助かるかもしれない。万に一つでも可能性があるなら、それに賭けてみよう。
ああ、身体がどんどん冷たくなっていく。


待って、まだ、いかないで!


――ねぇ、


掠れた声が耳に届く。お願いだから喋らないで。


――わたしがしんでも、せかいはまわるね


変わらず掠れた声だったが、それははっきりとボクに届いた。
そして彼女が、それっきり言葉を発することはなかった。






「へぇ。それがあの子の最期の言葉かい。なんともあの子らしいねえ」

「ボクには、理解出来ない」



彼女の最期を、彼女の友人であった桐に伝えた。桐は薄笑いを浮かべてあの子らしい、ともう一度呟いた。満足そうに笑う桐に、ボクは不服な顔を向ける。


「ふうん。天音にはわからないんだね」


桐は、憐れみにも羨望にもとれる眼差しをボクに向ける。ボクはその瞳が気に入らずふいと顔を背けた。



「天音は、幸せなんだね」



ああ、全くもって理解が出来ない。何故今ボクが幸せかどうか関係してくるのだろう。桐は何が言いたいのだろう。
わからないわからない。



「人が死んでも世界は廻る。人はその空いた穴を何かで埋められるように出来てるからね。それはあたしが死んだって同じさ」

「桐が死んだら、ボクは悲しい」

「それも一瞬さ。すぐにあたしのことなんか忘れて、新たな友人が出来るよ天音なら」

「それに、桐は当主なんだから、お家の人だってきっと悲しむよ」

「当主は必要不可欠なもの。だからこそ、あたしが死んだらすぐに代わりをつくるものさ。何も『桐』である必要はないんだよ」



ああわからないわからない。何故こんなにもボク達は噛み合わない。



「桐が死んだら、ボクは悲しい!」



「そ、れに……、ボクが死んだら、家族も、凪も……、桐だって、悲しんでくれる」



それともそう思っているのはボクだけなのか。ボクが思うほどにボクは想われていないのか。



「代わりがいるなんて嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。ボクは信じない。代わりなんていない。代わりなんていちゃいけないんだ……!!」

「天音」

「もう何も聞きたくない!!!」



耳を塞いで泣き叫ぶボクを、桐は見下ろして自嘲気味に呟いた。



「やっぱり天音は、幸せなんだね」










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