勇者と魔王は表裏一体
・天音と凪音
『ゆうしゃは まおうを たおし せかいは へいわに なりました』
明るい音楽と共に自動で町を歩く勇者が写る。勇者が側を通る度に町人がお礼の言葉を掛けてくる。
ボクは幼いながらその光景に感動して画面を凝視しながら呟いた。
――ボク、ゆうしゃになる!
ボクには目に見えるものが全てで、その裏側で哀しんでいる人がいることに気付きもしなかった。
ある日、漫画の最新巻を買った。その巻で大好きだったキャラが死んだ。初めから登場していて、準主人公のポジションだった。ボクは大泣きして憤慨した。
――ボクが作者だったら、絶対殺さないのに! 信じられない。
側でそんなボクを見ていた凪が言った。
――誰も死なないなんて、逆におかしいだろ。それに今までだって何人か死んでるじゃねぇか。何でそいつだけ死んじゃ駄目なんだよ。
――だって! 悪は倒される為に作られたんだから、死んだってわかるよ! でも主人公は普通死なないじゃん! こいつだってほぼ主人公と同じポジションだったのにおかしい!!
ボクは、凪の反論には耳を貸さずわめき散らした。凪はそんなボクに呆れ、口を閉ざしたが、ボクは気が済むまで騒いだ。
ある日、カレイドスコープの話を聞いた。自国の為に戦うなんてかっこいい。それで活躍出来たらボクは勇者だ。
ボクは参加することを即決した。凪は猛反対した。
――ゲームや漫画とは違う。
――そんなのわかってる! バカにしないでよ!
――なぁ、天音。
うるさいなぁ、とそっぽ向いたボクの肩を強く掴んで、凪は真っ直ぐボクを見つめてきた。普段の様子とは違くて、流石のボクも何も言えずにただその瞳を見つめ返す。
――ゲームとは違うんだ。
一言。たった一言、凪はボクに告げた。
何言われるかと構えていたボクは思わずはぁ?と間の抜けた声を上げた。
それでも尚、真剣な瞳を向けてくる凪が理解出来ず、肩を掴まれた手を薙ぎ払った。
――そんなのわかってるよ!!
――いや、お前は絶対わかってない。
ああ、何故今になってこんなことを思い出しているのだろうか。側に倒れ伏しているのが気の置けない友人だからだろうか。
ボクの心はからっぽなのに、涙腺は壊れてしまったようで、絶え間無く涙が溢れていく。
ここには、人を蘇らせる呪文もアイテムもない。リセットボタンも存在しない。
勇者が『勇者』である世界はゲームの中だけ。ボクから見た『魔王』は倒すべき敵だが、『魔王』から見たボクもまた、倒すべき敵なのだ。
――お前は絶対わかってない。
そうだよ。ボクには何一つわかってなかったよ。
「ぅああっ……!! ああああああ――……!!」
『GAME OVER』
『コンティニューしますか?』
『はい/いいえ』
目を閉じても、ボクの前にその言葉が浮かび上がってくることはなかった。