決戦ノ響




・凪音と天音と春燕ちゃん




フラディルの参戦により、荒れに荒れた戦場も、フラディルの将軍が敗れたことで落ち着きを取り戻していた。
しかし、フラディルを倒すことはそもそもの目的ではなく、ただの通過点に過ぎない。先ほどまで三国で力を合わせていたが、今この瞬間から敵同士に戻ったという訳だ。

セナンは、体を休める暇もなく次の作戦――夜飛の将軍を討つ為に動き始めていた。
凪音も戦闘班の天音を含む他数名と、夜飛の本陣へと攻めていた。



「誰か来るよ!」



異能『飛羽』で空中から様子を伺っていた天音が叫ぶ。本陣まで後少し、というところで戦闘かと、凪音は小さく舌打ちをする。
すぐに戦闘システムが起動し、凪音も戦闘体制に入ろうとした時だった。



「――凪!!」

「うわっ!!」



急降下してきた天音に腕を掴まれ、ふわりと空中へ跳び上がる。これも天音の異能の一つであり、凪音も天音と同じ低体重になっているのだ。
何故そんなことをしたのか、天音に訊ねる前に、凪音が先程まで立っていたところに鋭利な岩石が生えてきた。
それを見れば答えなど問わなくても理解出来る。



「おー! 今のを避けるなんてすごいね! でもまだまだだよー!」



とても楽しそうな声が聞こえ、地上に降りた凪音はその声の主に目を向け、思わずはぁ!?と間抜けな声を漏らした。



「ん? どうしたの?」

「お前、夜飛の将軍だよな?」

「うん! 将軍の春燕だよ!」



少女――春燕が身に付けているのは、紛うことなく将軍の衣装であった。それを隠すこともなく、堂々と前線に立っている。



「なんで、将軍がこんなところに……」

「だって、ずっと座って待ってるなんてつまんないんだもーん!」



凪音の呟きに彼女は口を尖らせて言う。しかしそこで凪音ははたと気付いた。自分達は決して最前線を進んでいたわけではなく、第三陣くらいにあたるはずだ。なのにこの将軍は無傷でここに立っている。
にこにこと笑う明るく元気な少女だが、将軍に選ばれる為のものを持っているのは確かだった。



「じゃあ、キミを倒せばボク達の勝ちってことだよね!」

「そうそう! でも、あたしは簡単にはやられないけど、ねっ!!」



もう話は終わりだとばかりに、春燕は拳を地面に打ちつける。それが魔法の発動条件であるのか、再び地面が隆起し鋭利な岩石が生える。それを凪音も天音も左右に跳び避ける。



「よーし! 今度はこっちの番!」



天音が小さな光球を数個作り上げ、ぽんぽん破裂させていく。威力は殆どないが、相手の目を眩ませるには十分だった。
その光の中を通り、凪音は春燕へ駆け出した。魔法で作り上げた槍を持ち、真っ直ぐ相手を貫く。



「おっと!」



しかしそれは叶わず、すんでのところで躱され、空いた胴体へ春燕の拳が繰り出される。咄嗟に受け身をとったものの、まともにくらった凪音は吹っ飛び、地面に倒れる。すぐに追撃しようとした春燕を天音が遮った。



「ボクもいるってこと、忘れてもらっちゃあ困るなー」

「大丈夫! 忘れてないよ!」

「――天音!!」



天音が来ることを予想していたかのように春燕はさっと体制を変えると、天音の魔法を避け、天音へ拳を繰り出す。
天音は当たるぎりぎりで光球を作り出し、軽い爆発で身を防ぐ。
杖をぶんと振り、春燕の追撃を防ぎながら、大きな光球を作る。
春燕はそれが威力が高いものであると察したのか、後ろに下がり光球から距離を取る。しかしそこには凪音が作った黒い球があり、そこから伸びた無数の槍が春燕を襲った。



「うぅ、いったーい!!」

「――もらった!!」



呻く春燕の後ろへ回り込んだ天音が叫ぶ。瞬間、凄まじい光と爆発が起こり、砂煙が上がった。



「おしまい、かな?」

「……あーあ、この『分身』ってやつは使いたくなかったんだけどね。正々堂々、倒れたら負けって方が好きなんだけど……」

「え…………うぐっ!!」



将軍にのみ使える魔法が発動したらしく、春燕は怪我を負うこともなく立っていた。溜め息を吐きながら両手を組んだ瞬間、天音へと突っ込み、鳩尾にその拳を叩きこんだ。
早さも威力も先程の比ではなく、油断していた天音は思いっきり吹っ飛ばされ、後方の木の幹に体を強打した。天音の体はそのままずるずると幹を滑り、地面に力なく倒れ込む。



「天音!!」

「まだまだ行くよ!!」



春燕は勢いよく地面に拳を打ちつける。大きく隆起した岩石が凪音を襲い、反応が遅れた凪音の右腕を裂いた。それでも攻撃は止まることなく、凪音は左手で傷口を強く握りしめながら、右へ左へとただ避けることしか出来なかった。
隙を見て、布を巻きつけ止血をするが、右手は使えそうにない。
利き手が使えなくなった凪音は仕方なく左手に槍を持ち応戦するが、春燕の拳を防ぐことが精一杯だった。体制は依然として劣勢のまま。押されながら策を練るが、じくじくと痛む右腕が思考の邪魔をする。



「そろそろ降参したらどうかな?」

「っ、バカ言うな。誰が降参なんてするか」

「そうだよねー! でも残念。あたしの勝ちだよ!」



拳を構え、突進してくる春燕に、凪音は持っていた槍を投げる。しかしそれは春燕にかすることすらなかった。



「残念! 外れちゃったね!」

「いや……当たったよ――」


丸腰になった凪音の顔に春燕の拳が迫り、寸前で止まった。



「あ、れ……?」




春燕は寸前で止めたわけではなく、止まってしまったのだ。凪音の手を離れた槍は春燕の影に刺さり、春燕の自由を奪った。効果は数秒。しかし、その数秒が勝敗を分けることとなった。



「形成逆転、だな」



春燕の喉元へ槍の先端を突き付け、凪音はにやりと笑った。
春燕も負けずににやりと笑うと、自由を取り戻した両手をあげ、大きな声で叫んだ。



「降参!!! みんなごめーん!!!」



潔いよい降参宣言に、周りで戦闘をしていた両国の生徒も、お互い苦笑いを浮かべ、戦闘を中止することとなった。





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